ルキ様ワンライ「林檎」


ユーマが今朝、早摘みだと言って持ってきたりんごがサイドテーブルに転がっているのをルキは見ていた。読書が落ち着いてふと目をやったに過ぎないが、モノクロに慣れた瞳に、その赤は妙に眩しく毒々しい印象を拭い去れない。
古来、歴史や物語のさまざまな場面でりんごは重要なアイテムとして登場した。白雪姫、ウィリアムテル、万有引力の法則・・・そして、アダムとイブの始まり。

ルキにとってのりんごとは、きっとあの時
取ったカールハインツの手なのだろう。
何者になっても生きていたいと、
その毒りんごに手を伸ばした。
毒であることは知っていた。
それを知っているのは自分だけでいいと思っていた。
兄弟として、4人で生きていけるなら。

イブをかどわかす蛇として存在し、
逆巻家の誰かがアダムとして覚醒するために
利用されているだけだったという事実は
自分一人が甘酸っぱい果実を喰らって理解すればいい。

ルキは、まだ青い部分の残るリンゴを手に取ると、自分の手首を果汁が滴るのも構わず、極上の血を味わうときのように
実に牙を突き立てた。

「・・・ヴァンパイアを惑わせる極上の血、か・・・どれほどのものか、味わってみようじゃないか」

ぐしゃり。
ルキの手の中で、りんごは砕かれ、瑞々しい果汁がルキの手を汚した。


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