refrain rain


昼から降りだした雨は、
夜になって勢いを増したようだった。
パラパラと音を立てていた雨粒が、今は窓に叩きつけるものに変わり冷たい風と共に家中に響いた。
こんな豪雨のなか、シュウは何処をさ迷っているのだろうと思ったもるはいてもたってもいられなくなって、頑丈なだけが取り柄の大きな傘を手に外へ飛び出した。
斜めに降る雨は傘などで防げるものではなく、もるの服はすぐにびしょ濡れになった。
ぐっしょり濡れたシャツが、自らの体温を奪ってゆくのがわかる。
ぶるりと大きく震えるのを片手で押さえながら、尚もシュウを探した。

「シュウさんっ!」

湖のほとりの木陰に凭れかかって目を閉じているシュウに駆け寄った。
傘を差しても防げぬ雨だ。
木葉で防げるはずもなく、シュウのカーディガンからは雫が滴り落ちていた。

「…なんだあんたか。何しにきたわけ
せっかく静かでいい気分だったのに邪魔しないでくれる」

この雨と同じくらい冷たいシュウの言葉に体がすくむ。
それでも雨にずっと濡れているシュウを放っておくことはできず、もるはそこで縫い付けられたようにたちつくした。

「くく、いい加減俺の言葉にいちいちびくつくの、止めたら。ほら…あんたもこっち、来なよ」

ぐ、と力強く引かれて傘を持つ手が揺らいだ。

「あんたももう濡れてるな、今更傘なんて必要ないだろ?もっと一緒に濡れなよ…そっちの方がずっといい。あんただってかまわないんだろう…?俺のそばに居られさえすれば、さ」

喉を鳴らして笑いながら、濡れて冷たくなった服の上から唇を押し当てられたところだけが熱を持つ。

「…うん。いいよ…シュウが、居てくれるから…っ」

雨でセットした髪が濡れて崩れても、雨を吸って重くなった服が肌に張り付いてもシュウと一緒に居られるなら平気だと笑って告げれば、腰を抱き寄せる手にほんの少し、力がこもった。

「馬鹿だなあんた…自分から地獄に堕ちていくなんて正気の沙汰じゃない。けど…俺ももう、麻痺して狂ってるようなものだから…いけるところまでいけばいいか」

あんたも道連れだ、という囁きが、雨粒に溶けて肌に染み込んだ。



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