首都圏の空港とこっちの空港だとやはり感じる何かが違う。
昔は北海道に行くまで "空を飛ぶ" という発想は無かったのに、時代は変わるものである。
空港のロビーのベンチに腰を下ろし一息付くとトレンチコートのポケットの中でヴヴヴとバイブが鳴った。
画面には "皮肉之助" の文字である。

「もしもし、今空港に着いたとこ。」

「へぇ、あんたの事だから今頃何かしらやらかして警備員に捕まってると思ってた。」

クックと押し殺す笑いが聞こえて来てフツフツと憎らしさが込み上げるのと同時にたった1日2日程度離れていたのに懐かしさも湧き出た。

「なに、またブログしてんの?残業代ちゃんと出る職場なんだし真面目に仕事やんなきゃ鶴見さんとか月島さんが怒るよ、変な汁ブシャァだよ。」

「嫌だね、それより早く帰ってこいよ。寂しいもんだぜ、あんたがいないと」

ああ、これだから私はこの男に弱い。
私が喜ぶ事を態とらしくとも皮肉の後に付け足してくれるのだ。昔から。

「はいはいはい、夕方迄には着くと思うから私の冷蔵庫のプリン食べていいよ」

「いつのだよ、それ。プリンならもう2日くらい前に食っちまったけど俺は今焼きプリンが食べたい。」

よろしく頼むぜ、と一方的に電話を切られる。何なんだ何なんだ。
私は思わず荷物を放っぽり出してその場で大の字で暴れてやりたくなった。(大の大人がそれをしたらそれこそ問題であるが)
財布の中を確認し、私は荷物を掴んで外へ出る。
北海道の澄んだ空気が肺へ染み渡った。

タクシーを捕まえ駅まで行こう、そして電車で揺られてスーパーへ寄り焼きプリンを2つ購入して帰宅。
最後の其れは予定になかったものだがプランニングを頭の中で練る。

なんだかんだ言いつつも私はあいつが大好きで仕方ないのだ。

「駅までお願いします。」

タクシーを捕まえるや否や、私はメーターとの睨めっこを始めた。
私はお金には厳しいのだ、何処かのスーパーニートとは違ってギャンブルもしない。
酒は飲むが発泡酒発泡酒ビール発泡酒発泡酒発泡酒ビールで十分なのだ。
毎日ビールを飲んでいるのはあの男くらいだろう。そもそもその同居人のせいで私はキツキツカツカツなのかもしれない。

「あ、ここで大丈夫です。領収書もお願いします。」

メーターが上がるその瞬間に止める、得した気分になって声が弾むのも私は随分チョロい生き物である。

「あんた、ちょろいな」

なんて、前世から言われて来たもんだから自信はある。札付きのチョロさだ。
チョロいなんて言葉が当時からあるもんだからいけないもので、此方で対面した直前には「相変わらずのちょろさだ」と笑われたものだ。
あいつも相変わらず猫目のズル賢い嫌味で皮肉屋で、でも本当は優しくてお婆ちゃんっ子で美男子ですぐドヤって、髪を触る癖も射撃の腕も気取ってる顎髭だって何一つ変わっていない。私をワシャワシャと撫でるその手の感触も変わっていなかった。

ああ、気が付いたら…というよりも前世からあいつのことばからじゃないか。

首都圏と比べて断然過疎が進む駅中をズカズカと歩く。
駅中の売店では女性誌が"脱マンネリ!彼の心を射止める濃厚セックス特集" をデカデカと特集していて、思わず「これは駅中の売店という空間で表表紙を公表していいものなのか?」と凝視してしまった。

次の電車は案外早く、その女性誌を手に取る間も無く私は愛しい男の待つ家へ、その男の為に焼きプリンを買いに行くのだった。