2人ぶんの食材と2つの焼きプリンの入ったレジ袋を片手にスーパーから出る。

日は頭上に来ていて「正午くらいなのかな」なんて考えていたら思わず早足になり、最後は小走りで家路を急いだ。

「ちょっと幸子ちゃん? そんな競歩してどうしたの?」

これまた厄介なスーパーニートに捕まってしまったものだ。そうだ、あのスーパーの向かいはパチンコ屋だ。しかも本日新台入れ替えしたばかりだと旗が立っていた。

「白石、またパチンコしてんの?ギャンブルで億万長者狙うのホントやめなって…。正社員じゃなくて良いから働こう? 杉元くんも呆れてたからね! だからスーパーニートって言われるんだよ。」

私も白石も何故か競歩のような絶妙な速さで歩きながら話していたものだからはたから見たら完全に可笑しいものだろう。

「今生では網走刑務所には行ってないみたいだね。」

「ばっか、昔と今とじゃ牢屋のセキュリティが違うんだよ」

ふひゅうと息を吐き、呆れたようにやれやれとジェスチャーをして見せる目の前のスーパーニート坊主はムカつくが憎めない。
昔からムカつくが中々憎めないムードメーカーみたいな奴だったのだが、偶に心底うざったらしくなるのも事実だった。

「幸子ちゃん、まだ尾形ちゃんと暮らしてるの?」

ニヨニヨと私の恋愛事情に首を突っ込んでくるのも変わらない。前世では「幸子ちゃんはいつ尾形ちゃんとおそそしてるの〜〜?」だなんてデリカシーもくそもないような事を耳打ちしてきたくらいだ。(本人はきっと覚えていないだろうが、私は忘れない。現に来世まで持ち越してきた。)

「百之助とは今も昔もこれからも関係はただの恋人から変わらないつもりだよ。そりゃ昔と違って今の世の中じゃいつかは私も……って白石に何話してるんだ。」

白石は急に真剣な顔付きになってその坊主頭を掻いた。

「いいんじゃねぇの? 幸子が幸せならさ。あいつなら一応は公務員で給料こそ平坦だがボーナスが桁違いだし、幸せにしてくれるはずだ。昔っから『幸子が』『幸子は』って幸子の事になれば皆の前でさぞ幸せそうに、さぞ嬉しそうに話してくる奴だった訳だし。」

グッと親指を立てて何だか親のような顔をしだす白石はやはり憎めないものだった。というか、あいつは白石達にそんな事を話していたのか。

「でも、まあ!上手くいかなかった時はその時だぜ。 俺、こう見えて一途です。」

白石は立てた親指をそのまま自分の顔に持ってきて笑ってみせた。
白石なりの気遣いなのだろうか、別に上手くいってない訳でもないし寧ろ前世では出来なかったゆっくりと深い恋愛を謳歌しているくらいだ。

「上手くいってなかったとして浮気相手には源ちゃんはありえるけど、白石は無いよ。ニートだし。」

アッハッハと笑ってやると「クーン」と鳴き声が聞こえたので両頬肉を片手の掌でむにゅりと鷲掴んでやる。

「パグみあるよ。」

「ひゃなひへくらひゃい。クーン。」

こいつのお陰で元気が湧いたのも事実な訳だ。これは私なりの感謝なのだ。

「それじゃ、仕事見つけるんだよ。」

住宅街から少し外れた日本家屋が私と百之助の家である。
私は白石に手を振り住宅街をまたも小走りで抜けた。あいつと話したらなんだか本当に今すぐに逢いたくなった。









「俺、前世でも来世でも尾形には敵わないのかな。」

白石のポケットの中に入れたまま箱の角が潰れたパチンコ景品はレディースブランドのハンカチであった。
ほう、とため息を付いては猫背になりながら踵を返す。