「隅田、冷やし中華が食べたい。」

アシリパさんに言われては作らなくてはならない。
彼女もまた前世からの記憶を持ち、私とも少なからず親交があった少女である。
生憎、私は彼女がまだ "少女だった頃" に死んでしまったので彼女の成長を今になって見届ける親のような姉のような気持ちでいる。

「はーい、えっと…家来ます?」

「おい、尾形いるだろ。ダメだね。」

ですよね。知ってました。と目の前の顔面どころか身体中傷だらけの青年に呟く。

「おい、杉元。喧嘩は良くないぞ。」

中学の指定カバンを揺らし眉をひそめるアシリパさんは可愛いというよりも美人で何処かの女優さんのようだった。(なお、普段から私達に見せる変顔が破壊的なので断じて違う)

「杉元君のとこ、白石もいたよね? 何なら3人の分も作っていくよ。そっちのキッチン貸して。」

家で喧嘩になられたら今度こそ柱が折れる。この間は障子どころか襖ごとぶっ飛んだものだから2度と家で2人を混ぜないと決めたのだ。このご時世、死人を出されたら溜まったものじゃない。あの白石でさえ今世では偶に警察にお世話になる程度でムショには入っていないのに。

「え、助かるよ!流石隅田さん、ありがとう。」

途端に機嫌が良くなるものだから私も嬉しくなる。

因みに彼とはそんな関係等ではない。最近の深夜ドラマで云う美しく見せ掛けて正当化させたような不倫やら浮気やらではなく、マブダチである。

勿論白石ともそうだ。メッセージアプリでスタンプを連打して送り合い、自販機を前にすると唐突にジャンケンをはじめ、何かとお互いの相談をし合うようなそんな仲なのだ。

「冷やし中華を食べたら隅田は私の宿題を見て、それから杉元の寝床の片付けをして貰うんだ、後は…そうだな…この間隅田に洗ってもらった体操着から良い匂いがしたぞ! またやって欲しいな…」

アシリパさんは5歩ほど私の前を歩いて、立ち止まっては私の方を向き、キラキラと目を輝かせる。

「流石に百之助に夜ご飯作らなきゃ怒られちゃうよ。」

「そうか…」とシュンとなる姿も絵になる美少女である。ダメ元でメールを打ってみよう。
私はポケットからスマートフォンを取り出し、メッセージアプリを起動させた。

《 アシリパさんにご飯作った後、少し遊ぶので遅くなりそう。ごめんなさい。夕飯は適当に食べてて。》

送信と共に付く既読の文字。SNSの鬼か。仕事はどうした。

《 いやだ。》

「…」

即答瞬殺である。

「ごめんね、アシリパさん…。冷やし中華作ったら速攻帰らなきゃ射殺される。」

今ならジョークで済まされるが時代が後少し違えば笑いどころではない私達だけのブラックジョークである。

「尾形も困った奴だな。 隅田、今度はお泊まりセットでも持ってこい。」

「あのコウモリ野郎…! 隅田さん?大丈夫?尾形に何もされてない?」

私は苦笑いしつつも冷やし中華を作るために杉元宅へ向かった。

そして自宅でもまた少し機嫌の悪い大きな猫ちゃんの為にきっと作る事になるのだ。

《 冷やし中華だから 百之助も早く帰っておいで 》


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「嫁が冷やし中華作ってるので帰ります」

「落ち着け尾形、まだ14時だ。」

「クソ尾形、仕事しやがれ!」

「そもそも君、結婚はまだしていないだろう。」