やる気を削がれた私が原くんと2人でザキくんの悪口しりとりをしていると、話し合いを終えたらしい花宮くんが戻ってきた。それにしても、あの花宮くんが大人しく赤司君の下でせっせと働いているのは珍しい。バスケ界では俗に言う悪役的存在である霧崎の主将なんだから、ちょっと狂言回し的存在で行ってみるのもアリだと思うんだけど。そんな私の思考を知る由もない花宮くんは私に行けとだけ伝え座ってしまった。まさかの霧崎ファーストランナーである。

「女子なのに真っ先に出陣とかウケる」
「そんなこと言って私が帰ってこなかったら血相変えて探す癖に〜〜〜〜〜」
「帰ってこなくていいよ」
「マジか...」
「気をつけて行ってこいよ」
「健闘を祈る」
「はいよ〜」

原くん、ザキくん、古橋くんの応援(?)を背に私が出口前に行くと、もう面子は揃っていたらしく明らかに私待ってましたみたいな顔で何人かが立っていた。
メンバーは赤司くんとさっき口挟んできた関西弁の人。他にも2人居るけど全く誰かわからないので割愛。このメンバーの共通点としては、全員周りと比べ落ち着いていることだろうか。特に関西弁の人なんかは鋭そうだと私の直感が言っている。これを選んだのは各主将というより赤司くんだよなあ、うんうん、これは本当、

「警戒されてんなあ...」
「...」

私の呟きを拾った赤司くんはちらりとこちらに目線を寄越しただけで何も言わなかった。肯定しますってか、舐めてんな後輩の癖にとか言ってみる。
出る前に一応自己紹介をとヘラヘラした人が提案し、お互い名前を覚えるところから始まった。要らねえけどありがたい。

「俺は秀徳の高尾和成っていいます。多分この中で知らないのはみょうじセンパイだけだと思いますけどね!」
「氷室辰也です。みんなの足を引っ張らないように頑張るよ」
「今吉翔一や。さっきは堪忍なあなまえチャン」
「みょうじで〜〜〜〜す、自分名前嫌いなんで苗字でオナシャス」
「ぶふぉッ!もはや嘘つく気ないでしょ...!」

何が面白いのか1人でゲラゲラ笑う高尾くん。興味が無いのでさっさと行こうと赤司くんを見ると、思いが伝わったのか頷いて扉を開けた。ふと体育館を見ると、隅のほうに座った霧崎メンがじっとこちらを見つめていた。うちのバスケ部は心配性が多くてなまえ困っちゃう。

「思ったより暗くは無いっすね」
「つーか周りデカすぎて前見えないんで先頭切っていっすか?」
「流石に女の子を前にするのはなぁ」
「おんぶしようか?」
「ハ?」
「...ここは耐えてくださいみょうじ先輩」

まずはどこに行くかなんて話題が出るけど、ここがどこなのかすら分かってないのでどこに行くもクソもない。ゲームでいうなら初見プレイってやつ。体育館があることから学校であることはだいたい予想ができるので、とりあえず1番最初に見つけた教室を調べるということで意見がまとまった。この間わずか数分、流石頭脳派ぞろい。

「(この場にいる全員簡単に出られるとは思ってないんだね、出口を調べるという考えすら浮かんでないみたいだし)」

楽観主義の私には理解できないアレである。もしかしたら拉致した犯人がすんごいドジっ子かもしれないじゃん。
そうこう考えているうちに職員室と書かれたプレートがぶら下がる教室にたどり着いた。やっと進展かと思えば扉には鍵がかかっていて、氷室くんが開けようとするもがちゃがちゃと音を立てるだけで一向に開く様子はない。次の教室を探そうと歩き始めた時、背後から微かに音が聞こえたのを私は聞き逃さなかった。

「なんか後ろから足音聞こえてるけど走る?様子見る?私は走るに一票」
「は?足音?」
「ワシらと同じ人間の可能性もあるで、一応様子見た方がいいんちゃう?」
「万が一の時応対できる武器が今はありません、走りましょう」
「話し合ってるうちにもう姿が見えているのは気のせいかい?」

冷静すぎるのも玉に瑕なんだね。私にしか聞こえていなかった足音は、全員の耳に届くまで近くに来ていた。ひた、ひた。裸足特有の音だ。

「(身長は140m弱..体格からして女の子..子供?手に何か持ってる様子はないけど歩き方は明らかにホラゲで見るアレだよなあ)」
「何ぼさっとしてんすか、走りますよ!」
「ナンで、逃げるノ、?」

高尾くんに手を取られた時、女の子が口を開いた。その瞬間20mほど後ろをゆっくり歩いていた女の子が突然走り出す。釣られるようにして私達も走り出した。ひたひたひたひたひた、走っている割に足音は軽い。競歩だったら金メダル授与ってんなこれ。いつの間にか女の子がすぐ後ろまで迫っていることに気づくまで、あと2秒。