「___死んじゃえ」

すぐ後ろで声がした。振り向いた時にはもう手遅れ___なんてことはなく私より後ろを多分あえて走っていた氷室さんが振り上げた足によって、女の子は吹き飛んでしまった。ロリに躊躇ない蹴り、これは只者じゃねえ。

「あざ〜〜っす、死ぬかと思ったわ」
「お礼を言うのはまだ早いよ。さあ今のうちに!」

ピクピクと痙攣する女の子には目もくれず氷室さんは私の背中を押し走り出した。インテリヤンキーなの?笑うわ。
後ろを気にしながら走っていると、事務室と書かれたプレートがぶら下がったドアを発見。今度は鍵がかかっていなかったので、一先ずここに隠れようと全員で事務室に入った。女の子はもう追ってきていなかった。

「何なんだあれ...」
「人間...では無さそうやなぁ」
「これから先あの女以外の何かにも遭遇する可能性もあります。もちろん攻撃される可能性も...体育館は安全地帯と言った所でしょうか」
「とにかく捕まってはいけない。これだけは分かるね」

鍵をかけさっそく女の子について色々考え出す4人を置いて私は引き出しの中などを探索し始めた。最初のうちは出口とか空いてんじゃね?って考えてたけど、さっきのアレを見ればさすがの私でも事の重大さは察することが出来る。なら今考えるべきことはあの女がなんなのかではなく、どうすれば出れるかだ。ザキくんとやったホラゲではまず探索から始めてたし。

「もう勝手に始めている人も居ますが、とりあえずこの部屋でなにか手がかりがないか探してみましょう。時間はあと20分、10分は探索に使えるはずです」
「みょうじセンパイつえぇwww」

後ろでなんやかんや言っているが構っている暇はない。持って帰れそうなものは持って帰って花宮くん達と考えよう。事務室の内装は至って普通で、6つのデスクにコピー機や小道具入れのようなものが置いてあった。正直事務室を利用する機会は全くと言っていいほどないので、どこに何があるかなんて分からない。まず私は机の上に置いてあったトートバックを手に取った。

「(この先ああ言う化け物に遭遇する機会があるなら一番行っておきたいのは調理室...次探索行く霧崎メンに言っとけば勝手に武器持って帰ってくるっしょ)」
「みょうじセーンパイッ!なんかありました?」
「はあ。ハサミやらホッチキスやら」
「見るからに普通の事務室って感じッスよね〜」
「キミもしかして暇か?ここ漁っといて〜〜〜」
「えっ」

メンタル強えな、と聞こえたつぶやきに初めて気を遣ってくれていたのだと気付いた。要らないのでほっとこう。探索時間の残りはあと5分、武器はもちろんなにか手がかりになるものはと手当たり次第に引き出しを開けていると、キラリと光る何かが奥に入れられていた。

「..ビー玉?お、紙もある」
「何か見つけたかい?」
「戻ったら見せるんで探索してどうぞ」
「なまえちゃん冷たいなあ、先輩には愛想よお接しいや」
「はあ」

氷室サンといい今吉サンといい、何かと話しかけてくるのは私が女の子だからだろうか。よく分からんけど用がないなら話しかけないでさっさと働いてほしい。君らにはそれくらいしか利用価値ないんだからそこサボってもらっちゃ困るわ〜。ビー玉と一緒に入っていた紙には、真っ赤な色で文字が書かれていた。
"ずっといっしょだよ"
ちょっと何言ってるか分からない。ラブレターを事務室に放置するのは危機感がなさすぎるのでは?なんて冗談はさておき、ようやく手がかりのようなものが見つかり安心したわ。これだけ見ればただのラブレターだけども、謎解きなんて所詮ジグソーパズルと同じで。こういったピースを繋ぎ合わせれば必ず何か分かるのだ。まあ私は効率重視なんでこう言うの得意じゃ無いんだけど。

「(なんせうちには頭脳おばけが集まってっからなあ…)」
「10分経ったので体育館に戻ります。何か見つけた人はみょうじ先輩が持っている袋に入れてください」
「また襲われる可能性も考えたら武器持っといたほうがよくねえ?」
「ハサミしかないけど」
「なまえちゃんが持っとき」
「ザ〜〜〜〜〜ッス」

素手でも勝てるが武器があるに越したことはない。なんせ汚れないので多分。
視野が広いらしい高尾クンに一応周りを確認させて教室を出た。それにしても外は真っ暗で明かりがついているわけでも無いのに、妙に視界が比較的クリアなのは何でだろうか。考え始めたらキリがないけど、やっぱおかしな現象が起こりすぎてるんだよなあ。

「(刺激のある日々は嫌いじゃない。退屈な日々よりはマシだから。ここに連れてきたやつはもう少し気を遣って一年前くらいに来てくれればよかったのに)」

退屈で空白だった私の日々を変えた、最高にゲス顔が似合う男の顔を思い浮かべてみた。