徐々に溶け出す 貴方の声で


いつからだろう…
想っていないことを言えるようになっていったのは。
想ってもない相手と夜を過ごすようになったのは。
独りの寂しさを埋めるように、毎夜知らない誰かに愛を請う。誰でもいい、誰かに愛されたい…本当の私を愛して欲しい…。




今日出会ったのは、金糸のような髪の毛をもった褐色肌の彼。シャツのタイを少し緩めて見える胸元が色っぽい。


「名前を伺っても?」

「なまえよ」

「なまえさんですね」

「貴方は?」

「僕はバーボン、とでも名乗っておきましょうか」

「何よそれ」


どうやら本名を名乗る気はないらしい。まあ、名前なんてどうでもいいわね。どうせ今夜だけの関係なんだから。


「…早速だけど、貴方はどうやって私を愛してくれるの?」

「さぁ…?貴方の望みのままに」

「ふぅん…じゃあ期待してる」

「えぇ、なまえさんの忘れられない人になってみせますよ」



ゆっくりとベッドに押し倒される。
そのまま顔が近づいてきたかと思うと、唇が重なる寸前でバーボンの体が横にずれた。


「キス、すると思いました?」

したり顔の彼が笑う。そのまま私の隣に横になって、頭を引き寄せられる。いわゆる腕枕をされた。


「…どういうつもり?」

「どういうつもりも何も、なまえさんは愛が欲しいんでしょう?だから今夜は、僕がなまえさんに本当の愛を教えてあげます」

「何よそれ」

「そもそも、なまえさんは何でそんなに愛に拘ってるんですか?」

「別に…。特に意味なんてない…」

「そうでしょうか?いつもあの場所で誰かを探しているなまえさんを見てましたけど、どことなく寂しげな表情をされてましたよね?」

「いつも…?というか、私ってそういう風に見えてるの?」

「えぇ、だから貴方に声をかけたんです。…放っておけなかったから」


バーボンには私の心の中を見透かされている。そんな気がした。


「…そう。じゃあ、少し話を聞いてくれない?」

「えぇ、いくらでも」

「あのね…」





私は今まで思ってきたことを全て彼に話した。何故だか彼なら受け入れてくれると思ったから。
私の汚い過去も、綺麗な碧い双眸が溶かしてくれそうだと思ったから。



「そう、だったんですね…」

ふと彼の方を見ると何故だか泣きそうな顔をしている。
…何で貴方がそんな顔するのよ。

すると私の頭が彼の肩口に引き寄せられる。


「なまえさん、泣いてもいいんですよ?僕がちゃんと受け止めますから」


こんなことを言われたのは初めてかもしれない。
今まで胸の中に溜まっていたものが一気に溢れ出ていくような気がした。
そんな面倒くさい私を、嫌な顔せず受け止めてくれるバーボンは何て優しいのかしら。今日初めて会ったのに。


「さぁ、今日はもう寝ましょう。僕の腕の中でゆっくりとお休みください。僕はずっとここにいますから」



言われるままに泣き疲れた瞳を閉じる。
朝になればこの関係も終わりを告げてしまうけれど、今だけはこの温もりに縋っていたかった。







***

カーテンの隙間から暖かな日が溢れる。
まだ寝ているバーボンを起こさないようにして、本当の愛を教えてもらった部屋を出た。



「このしあわせに、さよならね…」

一夜だけでも、私を愛してくれてありがとう。

こうなる前に、貴方に出逢っていたかった。



2017/04/10
結衣さん企画 台詞縛り
『このしあわせにさよなら』

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