貴方の感情を突き放しましょう


「すまない、なまえ。俺と別れてくれ」




突然俺から発せられた言葉に、彼女はひどく動揺した。

「な、んで…?」


それは当たり前の返しだった。

だって今の今まで、俺たちは普通に幸せなデートを楽しんでいたのだから。



俺は今回の捜査で、ある巨大な組織に工作員として潜入することになっていた。

そこはとても危険な場所。俺の大事ななまえの存在に気づかれて、巻き込んでしまうわけにはいかない。



だからこそ、本当の気持ちに嘘をついて、封をするんだ。
もう、大切な人は失いたくないから…





「どうしても、なの…?」

なまえが震えた涙声で問う。


「あぁ、どうしてもだ」

「なんで…?」

「それは、言えない」

「…そっか。私こそごめんね…」




本当はそんな顔させたくないって、一番思ってるのに。
今すぐ抱きしめて、嘘だって言ってしまいたい。深く口付けて俺の存在をなまえの中に残したい。

俺が愛してるのはなまえだけだって…






「…零くん、好きだったよ」


俺にはもう何も返せない。




2017/04/25 rewrite
結衣さん企画 お題タイトル
『貴方の感情を突き放しましょう』より

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