ちゃぷん、と口まで湯船に浸かり息を吐けばブクブクと気泡が浮いては消えていく。私のつまらない不安も、この泡沫みたいにぱちんと弾けて消えたらいいのにな、なんて少し逆上せた頭で考える。
私の旦那様は、それはそれは素敵なお方だ。人望は厚いし仕事は出来るし学があるし、武道の腕は天下一品で、一見厳しそうな見た目だけどすごく慈愛に満ちた優しい人。そんな彼に惹かれるのに時間はかからなかった。

ブクブクブク。

ああ本当、何で私諭吉さんと結婚できたんだろう。プロポーズをしてくれたのは、彼の方からだった。今でもその台詞を思い出すと頬が緩むし、あの言葉に嘘偽りはなかったともきっぱり言い切れる。
じゃあ、何で不安なのか、と聞かれたらやっぱり世間の目だった。諭吉さんはこの街で一目置かれてる武装探偵社の社長で、国の政(まつりごと)に携わる人達からも信頼されてるような凄い人だ。そんな彼と干支が一回り以上離れている私との夫婦関係は、はたから見ればとても不釣合いなんだと思う。
今日だって、井戸端会議に花を咲かせるご婦人達が、「福沢さんのお嫁さん、まだ20代なんでしょう?まるで親子じゃない」と揶揄しているのを聞いてしまった。普段なら、人の夫婦間にとやかく言うような輩は自分の夫婦関係がうまくいってないんだろうなあ、くらいに軽く流せるのに、何故だか今日はその言葉が頭から離れない。夕食中諭吉さんに「今日は些か精彩に劣るようだが、何かあったのか?」と心配させてしまったし。はあ、駄目だな。きっと月の物前だから情緒不安定なんだろうな。
ああ、頭がのぼせてきた、そろそろ出ようと、思った時だった。



バンッ!



「なまえ?!!?!」


「っ?!!?」


それはもう扉が取れるんじゃないかというくらいの勢いで浴室に駆け込んできた諭吉さんが、湯気の向こうで切れ長の綺麗な目を見開いている。多分私はぽかんと口を開けた埴輪のような顔になっていただろう。



「ど、どうされました諭吉さん?」



「、、、一刻以上湯殿から出て来ない上に、何の物音も聞こえてこない、もしやなまえの身に何かあったのでは、と臆度してしまった」



無事で、よかった。
本当に安堵した様子でそんなことを言う諭吉さんを見て、只でさえ長風呂で逆上せた頭に血が集まる。きっと今、茹蛸みたいに真っ赤になっているんだろうな。



「長風呂もいいが、程々にしろ」



「、、、はい」



「、、風呂上がりには、なまえの好きな水菓子を用意している」



「!はい、直ぐにでます」



パタンと、入ってきた時とは対照的に静かにしまった扉。

ブクブクブク。

嗚呼なんだ、彼に愛されている限り、私の悩みなんてこの泡よりも小さくて儚いものなんだ。







そっと掬い上げてね、



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