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朝、杉野くんと一緒に登校して教室に向かった。杉野くんは道中何度も、あいつまだいるのかな〜と苦情を言っていた。

「烏間先生に苦情言おうぜ。あいつと一緒じゃクラスが成り立たないって」


杉野くんがそう言いながら教室のドアを開くと、昨日までいた場所にいたはずのその機械は昨日より体積が二倍に膨らんでいて。


「おはようございます!!渚さん、杉野さん!!」


と、美少女の姿を模している機械の中の二次元の人間が存在していた。

なんだこれ、と二人で驚いていると、いつの間にいたのか後ろに殺せんせーがいて、親近感を出すためにソフトを改ざんしたと言った。
しかも、新稲さんと共同で。


「全身表示液晶と体制服のモデリングを先生が、豊かな表情や明るい会話術などを操る膨大なソフトを新稲さんが製作しました」


殺せんせーもだけど、新稲さん。変な方向に動かしてない、これ...?




時間が経てばどんどんみんなもやってきて、昨日に比べて一段と変わった固定砲台にみんな一様に驚いていた。


「たった一晩でえらくキュートになっちゃって...」
「何騙されてんだよ。全部あのタコが作ったプログラムだろ。愛想良くても機械は機械。どーせまた空気読まずに射撃すんだろポンコツ」


寺坂くんがそういうと、固定砲台は機械を自分で動かして寺坂くんの方に向くと、泣きながら話す。


「ポンコツ...そう言われても返す言葉がありません...」


ぐすぐすなく固定砲台に、片岡さんが寺坂くんを責める。

すると、ごほんっと咳を一つして教室の扉に寄りかかる姿の新稲さんが。


「おはよう、新稲さん」
「うん、おはよ、渚くん」


殺せんせーが正しいのであれば、このプログラムの半分は新稲さんが作ったはずだ。
僕はそれを新稲さんに聞いてみた。


「固定砲台のプログラムを変えたのって、新稲さんもなんだよね?」
「そだよ」
「えー!?」


それを聞いたクラスのほとんどが驚く。
やっぱりそうだったんだ...かくいう僕も驚きを隠しきれない。
新稲さんの数学や物理の知識は僕らには到底及ぶことのできないものだというのは知っていたけれど、ここまでとは。


「私がせっかく変えたプログラムをポンコツと呼ぶなんて、いつから偉くなったの寺坂くん?」


と、意地悪そうな笑みで寺坂くんに近づく新稲さん。
それに、ビクつきながらも歯向かう寺坂くん。僕はなんとなくだけどいつも思うんだ。この二人、実はすごくいいコンビなのかな、と。


「お前だから昨日あんな遅くの時間に駅前いたのかよ」
「そだよ〜気づいたら20時でさ!!プログラミングいじるの楽しくなっちゃって」
「あのタコもタコだな。遅い時間まで女子残らせるなんてよ」
「でも寺坂くんに送ってもらったからさ」
「偶然だろうが」
「それでも事実だしね」


と、話す姿を見ても何も違和感は抱かないのだ。
けれど、彼女と仲良しの中村さんや原さんは面白いのか、ニヤニヤしながら新稲さんに絡む。
その姿はとても楽しそうで、見てるこっちも楽しくなった。


「あ、愛美〜今日は一緒に行けなくてごめんね」
「いえいえ!!昨日遅くまで大変だったんですね、お疲れ様です」
「愛美だけだよ私を労ってくれるのは...」


いつも一緒に朝登校してるのに、今日は一人で来た奥田さん。疑問が今解消されてすっきりしていると、茅野が話しかけにきた。


「やっぱさすがサチだよね〜数学者の娘だし」
「そうだね」


僕もこの学年になる少し前に聞いたんだけど、新稲さんは数学者の娘だそうで、昔からずっと数学や物理に触れて生きてきたそうだ。
だから中学程度の数学なら余裕に解けてしまう。殺せんせーも、新稲さんに数学を教えるときは少し苦戦してたりするから、よっぽどできるんだろうな〜とは思っていたけれど。

だからこそ、彼女がE組に落ちた理由がよく分からない。
数学がとても長けていて、他の英語や社会がそこまで良くないにしても2年までは普通に中の上の成績にいた。
だから、2年後期でこのクラスに来た時、僕はとても驚いた。


そんなことを考えていると、殺せんせーが教室に入ってきて、朝のHRが始まる。




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