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昼休み、話しやすくいい子になった固定砲台の周りにはたくさんの人だかりができていた。
機械の中で石膏を作ったり、千葉くんと将棋をしたり。とても大人気の様子だ。


「思いの外大人気じゃん」
「...しまった」


僕たちとしては喜ばしいことなのだけれど、殺せんせーは一人焦っていて。


「何が?」
「先生とキャラが被る」


と一言そう言った。
一ミリもかぶってないけど!?


「この子の呼び方決めない?自律思考固定砲台っていくらなんでも...」


という片岡さんの言葉にみんな悩む。
すると、中村さんがそういえば、と声を発した。


「サチもプログラミングに参加したんでしょ?」
「え?うん」


奥田さんと何か難しそうな雑誌を読んでいた新稲さんが顔を上げる。
中村さんの顔を見てこくりと頷いた新稲さんに片岡さんたちがそれじゃあ、と口を開いた。


「開発者として、サチが考えてよ」
「えぇ!?」
「お、それいいな!!新稲が名付けろよ」
「私が!?」


開発者なんてそんな大げさな。そう言いたげな新稲さんの顔を、みんな興味津々で見つめる。


「んー...じゃぁ、自律から取って律、とか?」
「オォ、安直〜」
「ダメ?」
「いや、いいんじゃね?お前は?それでいい?」


安直だなと言った木村くんに、少し心配げにダメかと聞いた新稲さん。前原くんが固定砲台にそう聞くと、とても嬉しそうに律と呼んでくださいと答えた固定砲台...いや、律にみんなもっとワイワイしだした。


「うまくやってけそーだね」
「どーだろ。寺坂の言う通り殺せんせーのプログラム通り動いてるだけでしょ」


カルマくんはそう言う。冷静な言葉に、僕も少し気持ちを抑えた。
新稲さんと殺せんせーのプログラムがどう働くのかは、まだ分からない。





「おはようございます、皆さん」


次の日、学校に行けばまた律はもとどおりになっていた。


「生徒に危害を加えないという契約だが、今後は改良行為も気概とみなす、といってきた」
「えー...」


烏間先生の言葉にため息とも取れる声を漏らしたのは新稲さん。
せっかく一緒に作ったのに。残念そうに肩を落とす新稲さんを、奥田さんが慰めているのが見えた。


「開発者とはこれまた厄介で...親よりも生徒の気持ちを尊重したいんですがねぇ...」


と殺せんせーはいうけれど、また前の状態に戻った律は、無情にも攻撃準備を始めるという。
またあのはた迷惑な射撃が始まるのかと、みんなは下敷きや教科書で頭を隠したりして備える。





すると、律が出したのは玉ではなくて、綺麗なたくさんの花束。




「花を作る約束をしていました。殺せんせーと新たなマスターであるサチさんは私のボディーに計995点の改良を施しました。
そのほとんどは、元マスターが暗殺に不要と判断し削除・撤去・初期化してしまいましたが、学習したE組の状況から私個人は強調能力が暗殺に不可欠な要素と判断し、消される前に関連ソフトをメモリに隠しました」
「それじゃあ律...!!」


新稲さんが嬉しそうな声を出す。


「はい、私の意志で産みの親に逆らいました」
「律!!よくぞ言ってくれたー!!」


新稲さんが叫びながら律に飛びつく。それを見て僕たちも続々と席を立って律に近づく。
律の新たなマスターとなった新稲さんはよしよしと律の頭(?)を撫でて、うっすらと出ている涙を指ですくっていた。


こうして僕たちE組に新たなクラスメイトができた。
少し見た目はみんなとは違うけれど、中身はとても優しい女の子です。





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