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梅雨の6月。雨の季節になった。基本的に雨は嫌いなわけではないので、この季節雨が降るのは少し嬉しかったりする。


『サチ』
『ん?』
『梅雨だから、しばらくは早く帰るようにね』
『は〜い』


いつもはあまり家にいないお父さんも、雨ばかりで家から出るのが億劫なのか今朝は家にいたし。
実に数週間ぶりの会話だったけれど、あの時の表情ばかりはお父さんのようで、少し心なしか嬉しかったんだ。


それにしても...。


殺せんせーの頭はどうしてあんなに大きいの?


「殺せんせー、33%ほど巨大化した頭部についてご説明を」


全員の願望を口にしてくれた律。私もその言葉にウンウンと頷きながら先生を見ると、先生は目を点にしながら、水分を吸ってふやけた、と言った。
生米みたいな頭なのね...。


「雨粒は全部避けて登校したんですが湿気ばかりはどうにもなりません」


そう言って自分の触手で顔を絞り水を出す殺せんせー。まぁそれも仕方ないよ、ここは古い旧校舎だし。
エアコンでいい感じにカラッとしてる教室を思い出してはため息をつきたくなる。
雨は好きでも、このまとわりつく湿気はどうも好きになれない。





「さ、愛美帰ろっか」
「そうですね」


授業も終わり、カバンに荷物を詰めて席を立ち上がる。
近くにいた寺坂くんにまた明日ね、と一言言って愛美と教室を出る。


「雨は好きだけどどこも寄りたくなくなるのが玉に瑕だよね〜」
「そうですねー外に出るのも少し嫌ですし」
「でも体育が外じゃないから嬉しいかな」
「ふふ、確かに」


いつもの分かれ道に到着して、愛美とバイバイをする。
一人でとぼとぼ駅に向かって歩いていると、目の前にいたのは菅谷くんで。


「あれ、菅谷くん」
「おー新稲か。駅?」
「うん」
「早く梅雨おわんねーかなー」
「ほんとそれ」


彼と二人並んで歩いていれば、不意に私と菅谷くんの両方に同時に電話がかかった。なんだろうと見てみると、菅谷くんの方は杉野くんからの電話で、私は殺せんせーからの電話だった。


「もしもし?先生?」
『新稲さん、今大丈夫ですか?』
「え、はい、大丈夫ですけど...」



先生の話してることを訳すとこうだ。

前原くんの元カノさんが今カレに、前原くんといるところを見られたくせに前原くんに逆ギレしたそうだ。
しかも、前原くんがE組だからだというなんとも理不尽なものだったみたいで。

それに腹を立てたみんなが(主に殺せんせー)小さい復讐をしようと考えているようだ。

菅谷くんは変装メイク、さっき別れた愛美には下剤を頼んだそう。


「私は何を?」
『千葉くんたち二人が見事弾を入れることのできるちょうど良い角度を求めて欲しいのです』
「...はぁ...?」
『あなたの空間を見る力、ぜひ貸していただきたいです』
「わかりました...」


いうて、そんなに力持ってないんだけどなーと考えながら、菅谷くんと顔を見あわせてとりあえずこくりと首を縦に振った。



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