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新しく来た鷹岡先生はいとも簡単に僕たちの心を開かせていった。
今じゃみんな笑顔で先生と話をしている。
だけど、それは一人を除いての話だ。
「やかましい!!パクリじゃなくてオマージュだ!!」
クラスのみんなと笑っている鷹岡先生をじっと見つめる彼女。
誰とでも笑顔で話せる彼女の、あんな冷たい顔を僕は初めて見た。
「ほい、渚」
「ありがとう杉野くん」
隣に座っていた杉野くんに渡された紙は、新しい時間割だった。
その時間割は、10時間授業に、夜の21時までびっしりと詰まった訓練という字。
こんな時間割はあんまりだ。
僕たちは受験生でもあるのに、勉強の時間が科目一つに対して週に一度。
そんな僕たちの不平不満を、前原くんが立ち上がり代弁してくれた。
「勉強の時間これだけじゃ成績落ちるよ!!理事長もわかってて承諾したんだ!!遊ぶ時間もねーし!!できるわけねーよこんなの!!」
そういったとたん、鷹岡先生は今まで見せていた笑顔のまま、普通に前原くんのみぞおちに躊躇なく蹴りをくりだした。
「できないじゃない、やるんだよ」
倒れた前原くんに皆が寄る。
苦しそうにあえぐ前原くんを皆でささえていると、鷹岡先生...いや、鷹岡は、狂った目つきでこちらを見下しこういった。
「言ったろ?俺たちは家族で、俺は父親だ。世の中に...父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」
「世の中に、父親が絶対の家が100%だ、なんて。どうして思うんです?」
今まで、一言も言葉を発していなかった新稲さんが口を開いた。
その顔はさっきまで見ていた不機嫌そうな冷たい顔は消えて、本当に心の底から鷹岡を軽蔑してる顔だった。彼女は静かに立ち上がる。
「...父親はこうだと、どうして自分から言うんです?どうして形から入ろうとするんです?
どうして自分の気持ちばっか最優先するんですか?」
前原くんをかばうように、いや、僕たちをかばうように。もしかしたら、彼女自身をかばうように。
新稲さんは鷹岡の目の前に立ち、キッと彼を睨み上げた。
僕も含めてクラス全員が驚いている。
いつも一緒に過ごしている奥田さんや、中村さん、原さんも、新稲さんの名前を呟いた。
そりゃそうだ。いつもは明るく、女子と談笑したりファッション誌をビッチ先生と眺めたり、本当に、数学が大好きすぎるところを除けばただの女の子だから。
そんな彼女のあんな憤怒に満ちた顔、冷めた顔を僕たちは初めて見た。
「...お前は父親の俺に逆らうのか」
新稲さんを見下しながら、鷹岡がそう聞く。
その目は、逆らうものなら容赦はしない。
そう言ってるように見えた。
それでも新稲さんははっきりとした物言いで、こういった。
「あんたを父親だなんて認めてない」
断言した新稲さんを、鷹岡は一瞬も戸惑うこともせず殴った。
思い切り吹き飛んだ新稲さんの名前を全員で叫ぶ。
「新稲さん!!」
「サチ!!」
遠くの方に吹き飛ばされて気絶したままの新稲さんに、僕たちは全員、血の気が去るのを感じた。
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