2

彼女、新稲サチさんがあんなにも怒りを見せるところは初めて見た、と、クラスの全員が思っていることでしょう。
ここの担任になって早数ヶ月、かくいう私でさえ未だに彼女の表面下の感情を見たことはありませんから。


鷹岡がいなくなり、烏間先生を元の位置に戻すことができたということで、クラスの皆さんは烏間先生から放課後に甘いものをおごってもらうそう。

ぜひ先生にもおごっていただきたいと何度も土下座しながら走れば、しびれを切らした烏間先生が一つだけならという条件付きで、生徒の皆さんと一緒に街にくりだす事に許可をもらえました。
さぁ、あとは未だに殴られた衝撃のまま寝ている彼女を待つだけです。

教室で皆さんと雑談基課外学習をしていれば、中村さんと原さんが、もうそろそろ新稲さんが起きる頃なのではと提案をしました。

彼女たちは新稲さんと仲よく過ごしている方達ですから。
それに彼女につきっきり保健室で待っている奥田さんも心配ですし、課題学習は終えて、そのまま校門に向かいましょうといえば、全員がやったー!!と叫びながら鞄に教科書を詰めていきます。

それを目を細めながら見守っていれば、中村さんがなにやら寺坂くんにニヤニヤしながら近づきました。先生であるのだから、生徒の恋愛事情などはきちんと把握しておかなければ...!!聴覚を鋭くすれば、騒がしい教室の中から聞こえる小さい声はこう言っていました。


「サチの鞄持って行ってよ」

「お前が持ってけばいいだろ」

「寺坂だってサチのこと心配してたじゃん」

「してねーよ」

「してなかったらわざわざ放課後残らないでしょ。この後一緒に街に行くわけでもないのにさ」


そうなんです。
寺坂くんは唯一クラスにまだ馴染めていない一人です。
なのにもかかわらず、今日は放課後の課外学習にも残っていて、ついに改心したのですね、と内心感動していたのですが。

どうやら寺坂くんは新稲さんを心配して残っていたようです。

ここはあまりにも意外なコンビでびっくりしていると、先生の感情に敏感に気づいた渚くんが、どうしたの?と声をかけてきました。


「いえ、新稲さんと寺坂くんは仲が良いのかと思いまして...」

「あぁ...うん、意外なコンビに思うかもしれないけど、あの二人結構仲いいよ」

「あーそれね、俺も思ってた。仲がいいっていうか、寺坂を新稲ちゃんが上手く扱ってる、って感じだけど」


渚くんの隣にいたカルマくんもそう言っていることから、おそらく本当にあの二人は仲がいいのですね。

寺坂くんを言いくるめることに成功した中村さんが、原さんを連れて保健室に行ってくると教室を出て行きました。

その後ろ姿をじっと見つめていれば、渚くんが苦笑しながら先生?と声を発します。

「実際のところ、あの二人がどんな仲なのか気になってるの、殺せんせーだけじゃないと思うよ」


カルマくんのその言葉に、渚くんが慌てて止めようとしますが時すでに遅し。
周りを見渡せば、意外にも先生と同じように面白そう...いえ、興味を持っている姿がチラチラ。
これは、ぜひ保健室での彼らの行為を見てみたい。そう思った先生が思わずヌルフフフフと笑えば、クラスの皆さんが一斉に冷や汗をかいたのを先生は見逃しませんでした。



prev next


ALICE+