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「珍しく気合い入ってんじゃん奥田さん」
「はい!!理科だけなら私の大の得意ですから!!やっとみなさんの役に立てるかも!!」
一旦教室へ帰ろうとみんなで移動している時、カルマくんが愛美にそう話しかけた。
愛美は理科が大の得意だから。
今回のあの先生の話を聞いて、とてもやる気に満ちているようだった。
「1教科限定なら上位ランカーは結構いるから...それに、サチがいるからまず触手は一本もらったも同然だしね」
茅野っちがこっちを見ながらにこっと笑う。
そう言われると結構なプレッシャーなんだけど、ごまかすようにあははと笑っておいた。
教室でみんなで勉強している時、杉野くんの方から電話で話す誰かの声が聞こえた。
その声が言っているのは五英傑と言われるA組のトップクラスの人たちについてらしい。
A組がその五英傑とかいう人たちを先生として、全員で団結して勉強会なるものを開いているそうだ。
だけど、杉野くんはそれを聞いても、大丈夫だと言った。
「目標のためにはA組に負けないくらいの点数を取らなきゃいけない」
その言葉に全員、優しく見守るような顔で彼を見届けた。
放課後、磯貝くんの誘いで莉桜と愛美と一緒に図書館へといった。
クーラーの効いた場所で勉強するなんて久しぶりで。快適だねーと話していると、わざわざ私たちのいるところにやってきて嫌味を言う人たちが。
これが噂の五英傑だ。
「どけよ雑魚ども。そこ俺らの席だからとっとと帰れ」
しっしっと手を振る男子に、茅野っちが切れながら後ろを振り向くけど残念ながら読んでいる本は目の前に座っている私にも丸見えだった。
「この学校じゃE組はA組に逆らえないの!!」
そういったのはもじゃもじゃの髪にメガネをかけた男子で。
その言葉に少しカチンときていると、思わぬ人物が代わりに立ち上がって抗議をしてくれた。
「逆らえます!!私たち次のテストで全科目で1位取るの狙ってるんです!!そしたら大きな顔させませんから!!」
あの愛美が。
面と向かって男子に大きい声で自分の意見を言っている。
その光景にさっき感じた怒りは何処へやら、私はなぜか感動して口を両手で覆った。
「どんな反応よ、それ」
莉桜の呆れたような顔が隣で見られるけど気にしない。
「いや、待てよ...記憶を辿れば確かに一概に学力なしとは言い切れないな...」
そういったのは先ほど愛美を切れさせた張本人。
そりゃそうだ。
この前の中間テストでは国語が23位だった神崎さん。
社会14位の磯貝くんに英語11位の莉桜。
そして理科17位の愛美。
みんなそれぞれの教科に自信のある人ばかりだもん。
「そして...数学"だけ"は常に1位のあの新稲までか...」
「その強調入らないんだけど」
昔からA組は嫌いなんだよ。
A組じゃないくせにとりあえず数学はいつも1位だったから、そのせいなのかA組の人たちに目をつけられて。
「数学者の娘っていうのはあながち嘘じゃないようだ」
「嘘は一回もついたことアリマセーン」
こんな人間と話すだけ無駄な時間だ。私は無視しながら問題を解いていく。
確かに数学と理科以外は壊滅なので、きちんと先生に渡された問題を一つ一つ丁寧に解いていかねば。
「面白い、じゃあこういうのはどうだろう?」
もう一人のメガネ男子がいった。
「俺らA組と君らE組。5教科でより多く学年トップを取ったクラスが...負けたクラスにどんなことでも命令できる」
そういった彼に、馬鹿らしいなと白い視線をよこす。
隣に座る莉桜と目を合わせて何言ってんだこいつら、と肩をすくめて見せた。
「どうした?急に黙ってびびったか?自信あるのは口だけか雑魚ども」
よく聞くよね、負け犬ほど吠えたがるって。
「何ならこっちは...命かけても構わないぜ」
誰かがそういったのを機に、私たちは一斉に筆箱からペンなどを取り出して、瞬時に彼らの急所へとめがけてそれを突きつける。
「命は...簡単に賭けない方がいいと思うよ」
渚くんのその言葉に、五英傑(一人除く)さんたちは尻尾を巻くように図書室を出て行った。
一緒に定規を首の頸動脈めがけて振った莉桜と、定規をカチンと合わせてハイタッチなるものをする。
「いえーい」
「ナイスサチ」
これで大人しく勉強ができる。
私はもう一度椅子に座り直して、愛美とここがわからないなどと教え合って勉強をしていった。
だけど私たちは知らなかった。
この図書室での騒動が、たちまち前項の知るところとなり、この賭けはテストの後の暗殺を大きく左右することになるとは。
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