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ついに期末試験が始まった。
コロッセオと言う名の紙上で、戦いが繰り広げられている。
理科では奥田さんが、英語では中村さんが。皆それぞれ自分の力を試せているようだ。
数学の戦場でも、今カルマくんと浅野くんがお互いに武器を持って戦っている。
それをニコニコと見つめながら見守るのは我らE組が誇る絶対の守護壁、新稲さん。
「...新稲さん、もう終わったの?」
「え?」
彼女が手にしているのは、敵の首だ。
一刀両断。鮮やかな切り口。
返り血も土ボコリも何も付いていないところを見ると、本当に相変わらず、新稲さんは数学という敵に対して何の苦戦もせずに勝ち取ってしまったらしい。
「今は暇だから、他の敵とも相手してるよ。同じ敵でも、
解き方
殺し方
は何通りもあるからね」
僕の顔を見ながらニコニコと何体もの敵を倒していく新稲さん。
やっぱり彼女の数学への飽くなき殺る気は、誰よりも上にあるらしい。
「さてみなさん、全教科の採点が届きました」
教室の教卓で、殺せんせーがトントンと封筒を揃えて口にする。
その封筒の中に、僕たちの答案用紙が入っているんだ。
全員それぞれ緊張を顔に出しながら、まずは英語の発表がされた。
「まずは英語から...E組の1位...そして学年でも1位!!中村莉桜!!」
中村さんが1位を取った。しかも100点らしい。
僕も学年6位まで上がったけれど、スペルミスが多くて何点か失点してしまっていたようだ。
「続いて国語..E組1位は神崎有希子!!」
だけど学年1位は浅野くんだったようだ。
それでも神崎さんは学年2位で、それだけで十分すごい。
「そして次は、数学。これはみなさん期待通り...」
殺せんせーが数学の採点結果を手にしてニヤリと笑う。
こればかりは全員一致で安心の顔を示していた。僕も、当たり前のように後ろを見やる。
「E組1位も学年1位も合わせて、新稲サチ!!さすがですね、新稲さん」
新稲さんがガタリと椅子を鳴らして立ち上がる。
その姿にみんなして拍手をしたり口笛を吹いたりして彼女をお祝いする。
「しかも新稲さん、100点の隣に150点と小さく書かれてあります」
その言葉に全員で、え!?と驚きの声を上げる。
150点ってどういうこと?
僕の前を通る瞬間に見えた新稲さんの回答には、裏面までびっしりと数式が連なっていて、同じ問題を最低でも2通りで解いたような痕跡が見られた。
そっちの回答にまで赤ペンの丸がひしめき合っていて、数学者の娘というのは伊達ではないなと思った。
そして続く理科での1位はとてもやる気に満ちていた奥田さんが取り、社会の1位は磯貝くんがとったようだ。
つまり、E組の勝利となった。
でも、数学の1位がまさかの新稲さんだけだったことに僕は少なからず驚きを隠しきれていない。
そこにいるはずのカルマくんの姿もない辺り、カルマくんは1位を取れなかったようだ。
「大丈夫でしょ、きっとカルマくんは余裕持ちすぎてたんだよ」
「え?」
次の時間までの10分休憩の時。
カルマくんを心配していた僕の前に新稲さんが現れた。
眉を下げて笑う新稲さんを椅子から見上げてみれば、新稲さんは窓から入る風でなびく髪を耳にかけて、僕の机に手をつく。
「確かにカルマくんと私がいれば、数学は二人が1位とって余裕だろみたいなそんな感じあったけど、カルマくんは私と違って全教科が良いからね。そこには私と彼の差がある」
数学しかできない私と全部できる彼とでは、やる気や努力や余裕が違う。
「だからきっと、カルマくんは大丈夫。ね?」
心配している僕を、新稲さんは心配していたようだ。
その彼女の言葉に、僕はうんと頷いて、新稲さんすごいねと声に出す。
「数学150点てどういうこと?」
「それだよ!!150点てどうやって取るんだよ」
クラスのみんなの声が新稲さんに集中する。新稲さんの数学の能力は、いったいどうなっているんだ。
みんなしてワイワイ騒いでいれば、密かに戻ってきていたカルマくんが見えて、誰にもバレないようにカルマくんをちらりと見れば、彼は少し顔を赤くしていたけれど、何か今までとは違うやる気に満ちた目をしていた。
それを見て、何だか少しだけ、安心したんだ。
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