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1時間目の数学の時間も、4時間目の家庭科の時間も、5時間目の国語の時間も、全部カルマくんは暗殺を試そうとしたけれど失敗に終わった。
なぜなら今までにない警戒心を先生が見せていたからだ。


「家庭科の時のフリルのエプロン可愛かったよねー」
「それは言っちゃダメだろ」


家庭科の時に、カルマくんが先生に着せられていたエプロンを思い出す。
フリルのついたエプロンは、とても可愛らしくてあれがいったいどこから出てきたのか気になるところだ。


「あ、ごめん、愛美、菅谷、原ちゃん先行ってて」
「待ちますよ?」
「いいよいいよ、後で走るから先行ってて」
「気をつけろよー」
「ゆっくり歩くねー」
「んー!!」


帰り道、玄関から出ようと歩いてる皆にごめんと一言言ってもう一度中に戻った。

今朝先生が作っていたたこ焼き。あれを先生は作り置きして、食べたい人は持って行ってもいいですよ、と言っていたことを思い出したからだ。
できれば、そのたこ焼きを全て欲しい私は、三人に先に行っててもらって、急いで先生を探した。


「殺せんせー...あれ?」


職員室を開いても、いるのは烏間先生だけ。


「烏間先生、殺せんせーは?」
「あいつなら、校庭に出て行ったのを見たな」
「校庭ですか。ありがとうございます」


言われた通り校庭に出て、先生を探す。


「殺せんせー!!」
「おや、新稲さんどうかしましたか?」


名前を叫べば、殺せんせーがカルマくん、渚くんと一緒に草むらの影から出てきた。


「あれ、何かしてたんですか?」
「いえいえ、最後のお手入れを少々」


ヌルフフフと笑いながらそういう先生にハテナマークを浮かべていると、隣にいたカルマくんが私の名前を呼ぶ。


「新稲さん」
「ん?」
「授業中うるさくてごめんね、結構イライラしてたでしょ」
「え、バレてた?」
「うん、めっちゃ」
「ありゃー...それはごめんね」
「ううん、隠す気なさそうだったし」
「だってうるさかったんだもん」


舌を出してごめんごめんといえば、カルマくんは今までとは違う、爽やかなにやけ顔で、私にごめんと一言謝った。


「明日からは大人しく暗殺するから」
「あれ、改心したの?」
「まぁねーこの先生に」


頷きながら先生を見る。先生のお手入れはうまくいったそうだ。ヌルフフフと、ニヤニヤと笑ったあの表情を浮かべていた。


「それはそれとして、新稲さん、どうかしたの?」


渚くんがそう訊く。私は、あっと思い出したように先生に向き直った。


「先生、今朝のたこ焼き、残ってますか?」
「たこ焼きですか?えぇ、残っていますよ。食べますか?」
「はい。いらない分全部ください」
「新稲ちゃん、たこ焼き好きなの?」


いつの間にやら新稲ちゃんと呼ばれているけれど、それはそれでいいとしよう。
カルマ君の言葉に、コクリと首を縦に振る。


「好きだよー」
「では職員室に行ってタッパーにまとめてあげましょう」
「じゃあ俺らは帰るよー行こうか渚くん」
「うん、さよなら、先生、新稲さん」
「また明日ね」
「気をつけてください」


帰っていく二人に手を振って先生と職員室に向かった。


「新稲さんはたこ焼きが好きなんですね〜」
「はい、粉物大好きなんですよー」
「先生も粉物は好きですね〜先週はお昼に大阪にいってお好み焼きを食べたりしました」
「今度大阪に行く時あったら私も連れてってください」
「えぇ、もちろんです」


先生とこうやって二人で話すことはあまりなかったかもしれない。
のほほんとそんな下らない話をして、できるだけたくさんのたこ焼きをタッパーに入れてもらう。


「ありがとうございます、先生」
「いえいえ」
「さようなら、烏間先生も」
「あぁ、さようなら」
「気をつけて」


触手で手を振られて、私も手を振り返す。
さて、愛美たちの元に走って追いつかないと。

たくさんたこ焼きの入ったタッパーを両手に持ちながら、私は元気に坂を駆け下りた。



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