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「...新稲サチか」
「おや、彼女に何か気になる点でもありますか?」
「いや、気になるというより、彼女の家は確か父子家庭だったな」
「えぇ。きっとたこ焼きをたくさん持って帰ったのも、もちろん好物だというのは本当なのでしょうが、節約でもあるのでしょうね」


授業態度はいたって真面目。
友好関係も良好。クラスの人間全員と隔たりなく話せるコミュニケーション能力を持っている。
運動は少し苦手なようだが、空間処理能力に一番長けているのは彼女だ。
そのため、地形を利用した演習などでは、彼女が一番動きに迷いはない。

俺から見た彼女の分析はこういったところだろうか。

奴の彼女への評価がどのようなものかはわからないが、あらかた一緒なのではないだろうか。


「彼女は数学、化学、物理、いわゆる理系科目が他の誰よりも群を抜いていいです。解答も美しい解答をします。ですが、文系科目、特に国語や英語が苦手ですね〜」


聞いてもいないのに、奴は話し出す。
窓の向こうにいるのだろう人物の背中を見ながら、触手をゆらゆらと揺らして続けた。


「新稲さんは基本的に奥田さんと常に行動を共にしています。ですが、積極的な生徒とも友好関係があって、幅広い人脈を持っていますね。これはおそらく、人の懐に入るすべを知っているのでしょう。生まれつきいい才能をお持ちです」


ヌルフフフと。奴特有の気持ち悪い笑い声がこだまする。
やはり、暗殺対象から見ても彼女の評価はそこそこに高いようだ。


「そして誰よりも、計算能力に長けている」


数学者の娘だと言う彼女の頭は、俺でも全てを分かるのは不可能だろう。窓のそばに立ちながら、遠くを見つめて言う奴の言葉に俺は耳を傾けた。


「空間処理能力、場を客観的に見る力、そして、何通りものやり方を探すことのできる頭の回転」


演習でも分かるが、彼女の頭の回転の速さには驚かれる。状況をとても冷静に見れる判断力に、周りの動きを観れるその観察力。
書類を書く手を少し止めて、俺は思考を巡らした。あと、彼女に足りないものというのは。


「彼女に足りないのは…」


奴はそこまで言うと、ヌルフフフと笑いながらこちらを振りむきあのニヤケ顔を俺に向けてきた。


「さて、今日の小テストの採点を行いましょう」


最後までは、言わない。

俺は奴のその行動をちらりと見て、もう一度手を動かした。
彼女に足りないものは、彼女自身が気づいていかなければならないから。


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