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「殺してやる...よくも皆を...!!」
渚くんがキレている。
このままじゃ本当に殺しかねない。茅野っちの手にいた殺せんせーが、寺坂くんへ話しかける。
「渚くんの頭を冷やしてください、君しかできません寺さ..」
寺坂くんはそう言われることがわかっていたのか、自身の武器であるスタンガンを渚くんに投げつけた。
「いっちょまえに他人の気遣いしてんじゃねーぞもやし野郎!!ウイルスなんざ寝てりゃ余裕で治せんだよ!!そんなクズでも息の根止めりゃ殺人罪だ。てめーは切れるに任せて百億のチャンス手放すのか?」
「寺坂くんの言う通りです渚くん」
寺坂くんの背中をさする。
さっきまでとは違う、身体中が熱くなっている。息が荒くなった彼の背中に腕を伸ばした。
「渚くん、寺坂くんのスタンガンを拾うんです」
殺せんせーの言葉がいつもより重い。
渚くんはそれでも、スタンガンを腰にしまい、ナイフを手にした。
それを見て、寺坂くんはぐったりとしながら倒れこむ。私だけじゃ支えきれなくて、吉田くんと木村くんも一緒になって支えてくれた。
ゆっくりと背中を起こして、楽な格好になれるように座らせる。
「わりーな、新稲...」
ゼェゼェと言いながらもお礼を言ってくれた寺坂くんに黙って首を横に振る。
こんなにまでなってもここにきた寺坂くんは、純粋にすごい。私はそっと優しく、彼の背中をポンポンと叩いた。さすがだよ、寺坂くん。
「新稲さん、どう思いますか」
寺坂くんと一緒にしゃがんている私の頭上から、殺せんせーが小さい声でそう聞いてきた。
渚くんを助けようとするひなたと千葉くんの行動を見透かして、予備の薬を壊そうとする鷹岡。
その言動は、もうどこにも私たちを救おうとしている感情は1mmも感じられない。
「...烏間先生、もう精密な射撃は可能なぐらい回復はしましたか?」
前に立つ烏間先生にそう尋ねれば、殺せんせーも私の言葉に続く。
「もし渚くんが生命の危機と判断したら、迷わず鷹岡先生を撃ってください」
「...それは、新稲さんもそう思っている、ということで異論ないのか?」
「...はい。渚くんを、守ってください」
こんな危機的状況、さっきの比じゃない。
どう計算したって、そこにはいろんな想いや私情が連なって最悪のパターンしか現れてこない。
殺せんせーは私よりももっともっと先を見通せる頭を持っているのに、私と同じ結果が出てしまうということは、それだけ今の状況が最悪だということだ。
渚くんは何度も何度も鷹岡に蹴られては立ち上がる、の繰り返しをしている。
あのままじゃ、渚くんが死んでしまう。
私は寺坂くんの服をぎゅっとつかんで、茅野っちと一緒に、もう撃ってくれと懇願をした。
けれど、それを寺坂くんは許さない。
「待て...手出しはすんな...」
「まだほっとけって、寺坂?そろそろ俺も参戦したいんだけど」
カルマくんの目に色がない。彼も相当キレているようだ。
それでも寺坂くんは、口元にニヤリと笑みを浮かべると、渚くんには何か隠し玉がまだあると言った。
隠し玉...?私はそれに首をかしげて、慌てて渚くんたちの方を見上げた。
渚くんは、笑っていた。
そしてそのまま鷹岡の元へと歩くと、手をノーモーションから前に突き出してパチンと音を鳴らす。
その一瞬の不意の出来事で体制を崩した鷹岡に向けて、腰にしまっていたスタンガンを引き抜き、渚くんはそのスタンガンを鷹岡の脇へと一発決め込むと、
「ありがとうございました」
渚くんは一言お礼を言って首にスタンガンの電流を流した。
「よっしゃ、元凶撃破!!」
少し恥ずかしそうにみんなの元に戻ってくる渚くん。
それを拍手して迎える。あんなに小柄なのに、一発で仕留めるなんて。
私とは違う頭の回転の速さだ。
「とにかくここを脱出する。ヘリを呼んだから君たちは待機だ」
烏間先生が携帯を片手にそう言ってくれた。
ワクチンはないけれどどうすればいいのかと思っていると、屋上の方へと向かう、先ほど倒した殺し屋三人が現れて、薬なんざ必要ないと、ピストルを口に含んだ男の人(さっきホールで対峙した男)が言う。必要ないとはどういうことだろうか。
「ふん、ガキでもさっきの戦法をとった頭を持ってるだけはあるな。お前らにはそもそも薬なんざ必要ねーんだよ」
「お前らにもったのはこっち。食中毒菌を改良したものだ」
要するに、クラスのみんなに盛られたウイルスは食中毒のもので、死にいたるものではないらしい。どうしてそんな裏切りとも取れることをしたのかと聞けば、そこにはプロの意識の違いがあった。
カタギの中学生を大量に殺した実行犯となるか、命令違反がばれることでプロとしての評価を落とすのか。どっちが今後のリスクに高くなるかを冷静に量っただけだ、と。
バリバリとなりながらヘリコプターがやってくる。
それに乗り込んだ殺し屋三人のうちの一人が、銃弾をパラパラと床に落としながら大きい声で言った。
「そーいうこったガキども!!本気で殺しに来てほしかったら偉くなれ!!
そんときゃてめーの頭が働かねーうちに、一発でその力を奪いに行ってやるよ」
彼の持つ銃口が私の方へと向く。
それにいち早く気付いた寺坂くんが、ふらふらな体のまま私の前に立ち塞がりかばってくれた。
彼のその行為に思わず驚いて目を見開けば、その殺し屋はふっと笑ったかと思うと、ヘリコプターの奥へと入っていった。
ヘリコプターが彼方へと飛んでいく。殺害予告とも取れるエールを残し、殺し屋たちは去っていった。
そしてそのまま、なんとか皆の待っているところへと戻り、もう大丈夫なことを伝えて、愛美とともに莉桜と原ちゃんの隣に座って笑顔を見せた。
「ありがと、サチ」
「ありがとうね」
「お疲れ様です、サチちゃん」
こんなにも、友達の顔を見て安心するだなんて。うっすらと出る涙に気付いた莉桜が笑いながら、私の頭を撫でてくれた。
「寺坂があんたを守ってくれたんでしょ?」
「は、寺坂くん!?」
「寺坂くんはサチのナイトだもんね〜」
「何の話!?」
「守ってやっから、って寺坂のやつが新稲ちゃんに言ってたじゃん」
「は!?」
思わず聞こえた声に振り向けば、そこにいたのはニヤニヤと笑ってこっちを見ているカルマくん。なんてことだ、聞かれていたのかあの時。しかもそれをいつの間に莉桜に言ったんだ。一番言っちゃいけない相手じゃんか。
「ま、それは明日おいおい聞くとしようかな〜」
「話すことなんてありません!!」
「えーうそだー」
「本当です!!」
少し赤くなる顔を無視し、いいから寝るよと私は莉桜の肩に腕を通して、愛美が原ちゃんの肩に腕を回して四人で部屋に戻る。
それぞれの疲れが泥沼のように襲いかかってきて、気づいたら四人固まってぐっすりと寝込んで、起きたのは次の日の夕方だった。
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