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あの暗殺の後、烏間先生の腕にひっついて歩いていたビッチ先生を見て、クラスのみんながなんとかくっけようとディナーをセッティングしたり原ちゃんがショールを作ったりした。
なんだかこういう、暗殺と関係なく人の恋を茶化したり応援したりする、というのが楽しくて。
これが中学生だよね!!とひとりごちたのを思い出す。



「(ウーーーーン...)」


夏休みも終盤だ。
父さんが大学に行く前に置いていった数学の専門書をあらかた解き終わり、腕をぐっと上に伸ばす。

あとは殺せんせーから個人的に与えられた文系の課題を解くだけ。
国語は評論なら解けるけれど、小説を解くのは苦手だ。
そのため、純文学とかなんだとか本文がくどくてなんでそんな行動とったのと突っ込みたくなるような小説の問題が連なってる。

私が何が苦手なのか、あの先生はよく理解していた。
人の心理を読み解くのが苦手な私に、小説が解けるわけなくて。



「あとはこれだけかー...」


パラパラとめくっていく。最後の問題にたどり着いて、ある一つの問いに指を置いた。


『では、生とは何か。』


小説で書かされる筆記問題の答えというのは、文章の言葉をそのまま使って解けるものじゃない。筆者がどんな思いで書いたのか、登場人物がどんな思いでそんな動作をしたのか。それを自分の考えと言葉で書くものだ。

殺せんせーが一度、個人の課外学習のときに教えてくれたものだった。

なるほど、とは思ったけれど。
でも、わからない。人の気持ちを自分の言葉で表すことが苦手で、人の気持ちを汲み取るのが苦手で、そんなんで自分の言葉なんて出て来やしない。

だから、わからない。どうしても、わからない。


父さんは何のために、あんなに数学を解いているのだろうか。


「......」


暑くなった部屋を涼ませるために窓を開こうと近寄れば、そこには殺せんせーが窓に張り付いていた。


「...殺せんせー...これ、プライバシーの侵害ね...」
「新稲さん!!夏休み最終日ぐらい皆さんで遊びましょう!!」
「え?」


殺せんせーによると、7時から夏祭りがあるからみんなで祭りで遊ぼうとのことだった。
だけど、残念なことに私はこの後用事があったため、お断りをさせていただいた。


「ごめん殺せんせー、私用事あるんだ、今日」
「ウゥ、そうですか...わかりました」


涙を流しながらハンカチを噛み締める先生に苦笑しながら、ごめんともう一度いえば、それでは次に渚くんを誘いに行ってきますとマッハ20で飛び出した。

渚くん、どんまい。



私は遠い目をしながら殺せんせーが飛んでいったであろう場所を見つめて窓を閉じてもう一度椅子に座り直し、最後の問題に目を通す。
どうしてもわからない。


生とは、何なのか。


暗殺をさせてるくせに、真反対なことを聞いてくるなんて。先生も性格が悪い。

パタンとそれを閉じて、私は椅子から立ち上がる。
愛美と花火を見る約束をしていた。人ごみはお互い苦手だから、どこか見やすい場所でみようということになって。
薄いカーディガンなるものを羽織って家を出る。
去年は、父さんと母さん三人で、父さんの勤める大学の屋上借りて見たんだっけ。

1年前の話だけど、どこか懐かしくて、暖かくて。

誰も返事をしないってわかってるけど、行ってきますと一言いって私は愛美と約束してる場所へと足を進めた。




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