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朝、愛美といつものように学校へ向かった。
教室に入ると同時に、莉桜が私に気づいて焦ったように名前を呼ぶ。


「おはよ、サチ、奥田ちゃん、ちょっとこれ見て」


愛美と二人。、どうしたのだろうかと顔を見合わせて鞄を背負ったままその莉桜がもってる新聞に目を通す。


多発する巨乳専門の下着ドロ 犯人は黄色い頭の大男


「...殺せんせー?」
「ほらな!!おーい、新稲も認めたぞ!!」
「は!?」


黄色い頭の大男、その一文を見て殺せんせーの名前をつぶやいてしまったことは申し訳ないけれど、その言葉を聞いて岡島がクラスの皆に聞こえるように大きい声でそう言った。

いや、まだ断定できるものでは...と焦りながら違う違うといえば、クラスの扉を開ける音が。
ふとそこを見れば渦中の存在、殺せんせーがいつも通り出席簿を片手に教室に入ってきていた。



「汚物を見る目!?」



一斉に殺せんせーを見る目が汚らわしいものを見るときの目へと変わった。







ひとまず朝のSHRを中断させて、新聞を殺せんせーに見せれば、殺せんせーはみるみるうちにわなわなと震えだす。


「正直がっかりだよ」
「こんなことしてたなんて」
「ちょ、ちょっと待ってください!!先生全く見覚えがありません!!」


殺せんせーは慌てながら触手を振る。もはやその触手も汚らわしいものに見えるけれど、とりあえず私はまだ殺せんせーを信じている。
速水さんが、昨日の夜は何をしていたのかと聞けば、先生は高度1万m〜3万mの間を行ったり来たりしながらしゃかしゃかポテトを振っていた、とか。さすがにそれじゃあアリバイにならないでしょうとさらに殺せんせーの顔を見つめる目が冷めたものへと変わっていく。


「待てよ皆!!決めつけてかかるなんて酷いだろ!!」


でもさすが委員長の磯貝くん。ここは殺せんせーをかばうために名乗り出た。


「殺せんせーは確かに小さな煩悩いっぱいあるよ。けど今までやったことといったらせいぜい...」
「えろ本ひろい読みに水着生写真で買収、グラビアを狂ったように見てたり?」


と私が磯貝くんの後に言うと、彼は私の目を見つめながら目を見開き、私の言葉の後に言葉を付け足した。


「あとは...手ぶらじゃ生温い、私に触手ブラをさせてくださいと要望ハガキ出したり...」


さすがに私はそんなことしてたなんて知らなかったよ?磯貝くんも男の子なんだなと感慨深く頷いていると、磯貝くんは正直に言ってくださいと殺せんせーをかばうのをやめた。


「先生は潔白です失礼な!!いいでしょう準備室の先生の机に来なさい!!」


皆で先生の準備室へ向かう。
机の中のグラビアを全部捨てるとかなんだとか言ってるけれど、そもそも教室にグラビアを持ってくるな。


「見なさい!!机の中身全部出し...」


殺せんせーが机の中に触手を入れて次々にものを出していくが、そこには雑誌だけではなくて女性の下着が。さすがにそれを見たときは口を手で覆った。



「みんな見て!!クラスの出席簿!」


隣の教室からひなたが出席簿を手にして走ってくる。
その出席簿を覗き込むと、女子の名前の横に全員のカップ数であるアルファベットが書かれていた。

中村莉桜の後に書かれている私のところには、

D 新稲サチ

と書かれていた。


それを見たのか、ちょうど隣にいた寺坂くんがちらっと私の方を見てきて。


「...寺坂くん、エッチ」
「あ!?」


と、わざと胸のあたりを両手で隠してジロッと睨めば、焦ったように寺坂くんが顔を少し赤くした。



そのあとも殺せんせーの変態容疑はどんどん出てくる。
一日中クラス全員から白い目で見られた殺せんせー。授業が終わったあと、愛美と教科書を鞄に入れながら談笑していれば、不意に隣にいるカルマくんに話しかけられた。


「新稲ちゃんだったらどう思う?」
「殺せんせーの?」
「そそ」


渚くんもこっちを窺っている。
私は動かしていた手を一旦止めて、頬杖をついて考える。


「...仮に私が、マッハ20の泥棒だとしたら...こんなに証拠をボロボロ落としていかないけどね...」
「俺もそう思うよ。こんなことしてたら、俺らの中で先生として死ぬことくらいわかってるはずだ」
「そうだね、殺せんせーからしたら、私たちからの信頼をなくすことは物理的に死ぬのと同じかそれ以上のことだと思うけど」
「...うん、僕もそう思う」



渚くんが少しホッとしたように笑みを浮かべる。
それを聞いていた茅野っちがじゃあ誰がやっていたのかと声を発すると、ちょうど後ろにいた不破ちゃんが嬉しそうに目を燃やして、こう言った。


「偽殺せんせーよ!!ヒーロー物のお約束!!偽物悪役の仕業だわ!!」



と。

その話には一理ある。
私もカルマくんもうんと首を縦に振って同意すれば、カルマくんが椅子から立ち上がって鞄を手にした。


「その線だろうね。何の目的でこんなことすんのかわかんないけど」


扉を出て帰ろうとしてたところだった寺坂くんの襟を引っ張りカルマくんが肘を寺坂くんの肩に置く。


「俺らの手で真犯人ボコってたこに貸しつくろーじゃん?」


それが一番いいだろうな、と愛美と笑顔で四人を見つめる。
寺坂くんは納得いってないのか、なんで俺が、と悪態をついた。


「えーだって寺坂、新稲ちゃんの胸見てたじゃん」
「わ、寺坂くん不潔...」
「男は皆巨乳がいいんだ!!」


不破ちゃんと茅野っちに一気に責められる寺坂くんを笑いながら見る。
カルマくんがこっちをちらっと見て、そうだよね新稲ちゃんと言った。


「そうだねーあれは完全に見てたもん、ね?」


もう一度わざと胸を両手で隠して寺坂くんを睨めば、寺坂くんは下唇をかみながら視線をそらして、チッと舌打ちをこぼした。


「新稲ちゃんの信頼戻すために頑張らないと、寺坂」
「ったく、うっせーな...」


まだ渋々といった寺坂くんを引っ張るように教室を出て行く四人に、頑張ってねと手を振れば渚くんがありがとうと言って手を振ってくれた。他の三人も手を振ってくれたけど、寺坂くんはただこっちを少し振り向いて、本当に小さく左手を挙げるだけして、教室を出て行った。


寺坂くんは本当に、照れ屋さんなんだから。




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