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その日の夜、寺坂くんから電話が来た。
殺せんせーはやっぱりやってなくて、真犯人がいたって。しかもそれはあのシロって人が考えたものらしくて、イトナくんと殺せんせーを戦わせるためのものだったらしい。
イトナくんはといえば、いきなり狂ったように暴れ出して、遠くの方へ逃げて行ったそうだ。


「そっか...大変だったね。皆は怪我してないの?」
「おう、多分誰も傷は負ってねーだろうな」
「なら良かった。イトナくんが心配だな...」
「...」


ベッドに横になりながら、天井を見る。
不意に聞こえなくなった寺坂くんが気になって、どうかしたのかと尋ねると、寺坂くんは一拍おいて声を発した。


「...シロのやつ、イトナのことを見限りやがった。自分の力を活かせてないからだとかなんとか言ってよ」


寺坂くんの言葉から、悔しそうな感情がうかがえた。


寺坂くんが変わったのは、殺せんせーが寺坂くんのいいところを存分に引きだして伸ばしてくれたから。それをするのは、自分の上司や保護者、教師の役割なのに、それを自ら放棄してるシロが気にくわないのだろう。



「寺坂くんも、変わったね」
「お前がちょくちょく話しかけに来てたからな」
「そうだった?」
「てめー自覚なしかよ」


なんて、自覚大有りに決まってるけれど。
私はわざと笑い声をあげて寺坂くんに聞こえるように変わってよかった?と聞いた。


「まぁ、よかったんじゃねーの」


と、寺坂くんが少し恥ずかしそうに言うものだから、私もなんだか恥ずかしくなって。
気がついたら二人して電話をつけたまま寝ていたのだった。









「なにそれのろけ?あんたたちの距離の詰め方がどんどん激しくなっててついていけないんだけど」
「なんでよ」


次の日に莉桜に昨夜の話をすれば、莉桜が呆れながら首をすくめて、原ちゃんには微笑ましそうに笑みを向けられた。
雑談をしているといきなり律にマスターと声をかけられ、携帯を見ると、焦った顔をした律が今すぐに私の本体を、と言葉を発する。

素早く本体のスイッチをつけて、携帯画面に表示された通りに切り替えスイッチをテレビにかえると、それはニュースで。


「皆、これ見て!!」


大きい声を出して全員に見てもらう。
携帯電話ショップが次々に破壊されているという報道。これは同じ触手を持ってるイトナくんの仕業だろう。それを見た殺せんせーが担任として責任があると言った。


「助ける義理なんてなくね?」


皆が口々にそう言う。確かに、放っておいたほうが賢明な判断な気もするけれど、約半年一緒に過ごしてたからわかる。殺せんせーはそう簡単に放ってくれる人ではない。


「それでも担任です。どんな時でも自分の生徒から手を離さない。先生は先生になる時誓ったんです」


その言葉、クラスの全員の胸に響いただろう。


「...それでは新稲さん、行動パターンのおさらいです」
「...はい」


殺せんせーは窓の方に向けていた身体をくるりと反転させ、私の方を向く。
律とともにイトナくんの出現していた場所を地図上でマッピングしていたのを気づいていたのか、殺せんせーはひょいひょいと触手を動かしながら、私の携帯を覗いた。


「そうですね...先生もこことここが次出現するポイントだと睨んでいますよ」


そう言いながらピトっと画面に触手を置き、殺せんせーの顔つきマークが二個、地図上に載せられた。ニコニコ笑いながらこっちを見るそのマークに、私は指を置いて、顔を上げて先生を見る。


「どっちにしますか?」
「...こっちです」


椚ヶ丘市の一番住宅街に近い携帯ショップ。
私はここを指差して先生とクラス全員に教える。殺せんせーはヌルフフフと笑いながら、クラスの皆は私を見つめながら、そして全員やる気を胸に抱いて、教室を飛び出した。





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