この世で俺に惚れない女なんて居ない。
いや、特別そう思っていたわけではないけれど、女なんて簡単に落ちるものだとばっかり思ってた。

この前、久しぶりに流星街での昔なじみの元へと行った。
今まで弟子なんてとらなかったあの偏屈な人間の元に、ある女の子が一人、弟子としてそこにいた。
その子が転びそうだった為、なんとなく手を差し伸べて少し笑みを浮かべてみせたのに、その子は何も反応を示さなかった。

へーこういう子もいるんだなー。

と、その時はそう思っていたけれど、エールが目で示すようにその子に注目して見れば、纏もままならない一般人のはずなのに、情報について話す時、彼女の目は確かに立派な凝をしていたのだ。

それを見た時の団長といったらなかったよ。
なんとしてでもあの子を仲間にしたいみたい。エールは昔なじみだとしても、その弟子が俺達の仲間になるわけじゃないからね。


まぁ、そんなこんながありまして、彼女の情報通り俺達はイリネ地方のお宝を手にする事が出来た。




「おい、シャル」
「うわ、なに、団長」
「うわ、とはなんだ」
「あーはいはい、小言はいいよ」

アジトで一人黙々と携帯やパソコンをいじっていた時、団長であるクロロが俺に話しかけて来た。

「エールの元にいたあの女が気になる」
「えー...自分で調べりゃいいじゃん」
「そういうのはお前の役割だろ?」
「はぁ...めんど」

よっこいせとおじさんくさいことを言いながら立ち上がり、埃を払う。こっちを見てる団長に舌をべーっとだして、俺はアジトをでる。
ただぶらぶらとなんとなくエールの店の方面へと足を運び、扉を開いた。

「はーーいいらっしゃいませーーー」

ドアを開けると、元気な声が聞こえた。

「あ...この前の」
「こんにちは。エールは?」
「エールさんは今多忙なのかんなのか知らないんですけど、自室にこもってパソコンをいじっています」

扉に近寄ってきた彼女に聞いてみれば、思いの外毒舌な彼女言葉な、ぷっと吹き出してしまった。

「この前は情報、どうもありがとう。君の情報ドンピシャだったよ」
「あ、本当ですか?良かったです」

淡々とそう言って、他人行儀な営業の笑顔を浮かべる彼女。
あぁ、この子は本当に俺とかどうでもいいんだなーとそう思った。

「いつからエールの所にいるの?」
「んー...三年前ですねー」
「どうしてここで?」

俺がしつこく質問を繰り返すからか、彼女は少し嫌な顔をして、そんなのどうでもよくないですか?と言った。

「だって気になるじゃん。俺達とエールは昔なじみでここは念を使える人しか入れないのに、一般人だった君がここにいるのは純粋に考えて矛盾してるんだよ」

その一言を聞いた彼女は眉を潜めてくるりと振り返り、本棚のある方へと向かった。いつからこの店に棚なんてものができたのか。そう言えばこの前来た時もあったな。
俺は店の扉を一度閉めて、彼女の元へと足を向けた。

「...ね?」

後ろから腕を伸ばして、棚にどんと手を置く。
肩をびくつかせてこっちを振り返る顔には、これ以上詮索するなという警戒心が現れていた。

「教えてよ。君の秘密」

腕を折り畳み、肘ごと本棚にくっつける。近い距離の顔に、さらに彼女の顔がこわばった。





「そこまでな、シャル」
「エール...邪魔しないでよ、もう」
「お前こそこいつの仕事邪魔すんなっつーの」

俺の後ろから掛けられる声に、あからさまに彼女の宝力が抜けるのがわかった。店主であるエールは俺の肩に手を置き、無理やり彼女から俺を離す。

「ヨル」
「はい」
「その仕事いったん中断させてこい」
「...はい」

そうだそうだ。この子の名前はヨルだった。

ヨルは本を持ちながら机の方へ向かう。俺はなんとなくその姿を見ていると、エールがため息をつきながらクロロか?と聞いて来た。

「そ。まぁ俺も少し気になってたし」
「...まぁなんだ、色々あるんだよ、と言ってもお前らには通じねーだろうから、とりあえず聞いてくれや」

エールはそう言うと、ヨルと同じ方向へと足を向け、椅子をひいてここに座れと顎で示した。
こういう、下手からでてる様で実は傲慢な所は、昔と変わらないしうちの団長とそっくりだ。  


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