わたしの話

それから幾ばくかの月日が流れて、私が中学にあがった春のことだ。
私は河川敷で、再び「それ」に出会った。いや、あのときも見かけた、というのが正しい表現なのかもしれない。とにかく、私には「それ」が見えていた。


「ああ、困ったッス。どこいったんスかねえ…」


はあ、と大きくため息をついて、項垂れる「それ」。キョロキョロと周りを探るように見渡しては、再びため息をつく。
どうやら探し物をしているらしかった。


「あれがないと、お皿が乾いてしまうッス」


青い体に、頭にあるお皿。「それ」は私の知っている河童に似ている。
しかし、河童が本当に存在するのかと聞かれれば、きっと私は「まっさかー!」と答えてしまうだろう。私は結構現実的な女の子なのである。

私は目を擦ってみた。きっと小さな子供が、河童の真似事をしているだけなのだ。そうに違いない。
しかし、周りを見渡してみても、「彼」に気付く人はいなかった。


「仕方ないッスね。もう一回探してみるッス!」


よし、と気合いをいれて、「それ」が勢いよく川に飛び込む。どぼん!と大きな水しぶきがたって、周りの大人たちが驚いていたけれど「魚が跳ねたのだろう」ととるに足らないこととされていた。けれど、私はぼんやりと「それ」の行き先を見送った。


「何だったの…」



あの春の日。
私はそれが「周り」には見えていないことがわかった。同時に、なぜか「見えて
」しまうこの能力を恐ろしく感じたのだった。