わたしの話02

「姉ちゃんはいつから妖怪が見えてたの?」
「えーっと、小学生の終わり頃からかな」
「ええ!じゃあかなり前じゃん!」


何で教えてくれなかったの!と目の前の景太がぷりぷり怒る。そんな景太を、白い妖怪が、「まあまあ」と宥めていた。


私が玄関先でカミングアウトしたあと、見事に怒られた私たちは慌てて部屋へと引き上げていた。「ケータはお風呂入って!七海はご飯を食べなさい!」と言われ、いう通りにする。
一先ず私はあの混乱のなかを抜け出せたお陰で、大分頭がさめたようだ。

――景太には、どこから何を話そうか。
私の「妖怪」に関する情報を順序だててシミュレーションする。しかし、何だかんだ考えているうちに私は景太に呼ばれ、いきなり冒頭の質問を投げ掛けられたのだった。

未だぷりぷりしている景太をなだめながら、「そういえば、」と白い妖怪が、こちらを見やった。


「自己紹介がまだでした。お姉さん、初めまして。私はウィスパー。ケータくんの妖怪執事です。うぃす」
「あ、はい。私は七海、です。よろしくお願いします」


お互いぺこりと頭を下げる。端からみたら奇妙な光景だろう。まさか妖怪と挨拶を交わすとは。

私は頭を上げて、まじまじとウィスパーを見た。「そんなに見つめられたら照れます〜!」と体をくねくね捻る。結構可愛いかもしれない。
妖怪にも執事っていう職があるんだなあとぼんやり考えていると、景太がウィスパーを押し退けて身を乗り出してきた。


「姉ちゃん!俺、このウィスパーとはおおもり山のガシャポンで会ったんだ!」
「え、おおもり山?」


そういえば、私が初めて妖怪らしきものを見たのもおおもり山だ。
何か縁があるのだろうか。というか、ガシャポンって何だ。ウィスパーがガシャポンから出てきたとでもいうの?


「それでね、ウィスパーからこれ、もらったんだ!」


考え込む私に、やはりお構いなしの景太が、ずいっと腕を出す。その腕には、少し変わった形をした腕時計が巻かれていた。


「これは?」
「これは妖怪ウォッチ。私たち妖怪と、人間を繋ぐものです」


ウィスパーが甲斐甲斐しく説明を加えてくる。
それを受けて景太も、「この時計を使えば、妖怪が見えるんだ!」と、より私の近くに時計を寄せた。


「このスイッチを押すと、妖怪レンズが出てきて、レーダーで妖怪を探せるんだって」


ほう、こんなものがあるのか。妖怪の世界とはなかなかハイテクなようである。


「これでたくさんの妖怪と友達になれるのですよ」
「妖怪が見える以上、たくさん友達になったほうがいいんだって!」
「へえ、そうなの」
「だから姉ちゃん!」
「ん?」

「妖怪と友達になるの、手伝って!」


私の第六感が鳴らした危険信号って、これだったのか。
目の前では、期待を込めて景太とウィスパーが私を見つめている。その目はいつもより潤んでいて、可愛さ3割増しだ。
けど、私はあえて言おう。


「無理。私も忙しいの」
「そんなあー!」


景太、あんたはそろそろ姉離れをしなさい。


後ろからかけられる非難の声を無視して、私は部屋へと戻る。私は普通の生活がしたいだけなのだ、と自分自身に言い分けて、ベッドへと潜り込んだ。

お風呂入るの忘れた、と頭の片隅で思ったときには、もう夢の入り口に手をかけていた。

その日見た夢は、一度だけ目があったあの少年のような妖怪が出てくる夢だった。