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店に戻る頃にはどんよりとした曇り空になっていた。そういう日は客足が減る、早めに店を閉めてもいいかもしれないな





夕方6時過ぎには雨が降りそうになっていた


「お前らもう帰ってええよ、傘また持ってけ」

「「お疲れしたっ!!」」

「ん、」


体育会系みたいな挨拶した2人は傘を受け取ると原付きを押しながら帰ってった。それと同時にポツポツ降り始めてきて、渡しといて良かったと安心し店を閉める準備を始めた


最後シャッターを閉めるタイミングで電話が掛かってきた。相手はヤマトやった...なんやろ?


「ん、どーした?」

『おーダン!なんだお前店来ねぇの?』

『だから店の用事があるから来ねぇっつたろーが!』

『ぁあ!?うっせーブス!...っうわ!バカ!やめろ!ってぇ!!』


...相変わらず仲えぇの

多分直美に殴られたんだろう音が俺にまで聞こえるってことは相当強い何かで殴ったんやろう。想像だけでもおっかないわ…


『ってぇ...、んで来ねぇの?』

「おぉ、仕事やからな」

『んだよ、この後ノボルもコブラも来んのに』

「んー...行けたら連絡するわ」

『おぅ!』






...、...、



ん?


雨音と一緒に何か聞こえた...?
後ろを振り向いたが外には誰もいない
気のせいか、いや当たり前か
俺しかいないんや、し...




「っ!?」



ガン!!



『ん?どーしたダン』







気がつかなかった





そこに、まさか...人がいるなんて


しかも...っ、う、嘘や、ろ...っ







な、なんで..なんでお前、が...っ









「...よぉ」







雨宮...ひろ、と...っ


雨に濡れたのか全身ずぶ濡れで
まるであの日を思い出すような格好で...


脳裏に...あの日のことを...



『ダン?』

「っ!?あ、お、おぅ!」


ヤマトの声にようやく気づいて
吃りながら答えた
でもあかん...頭の中パニックや...っ
なんで、コイツがここに...っ


『いや、おぅじゃなくて…なんか物音しなかったか?』


物音、とは俺が驚いて商品が並んでいる棚にぶつかった音のことやろう、どうしよう…なんて答えればいいっ


「...一八」

「っ!?」

「...」


ニヤリと笑う雨宮は俺の手を掴んできた
途端にブワッと汗が頬を伝う…
心臓の音がバクバク鳴って
頭が...真っ白に...っ



『ダン!聞いてんのかよー!』

「っ!?わ、悪ぃ!ちょっと電波悪いみたいや!音はアレや、電気消したまま店の前のシャッター閉めたら棚にぶつかってん!それちゃう?」

『あ?んだよ、何かあったんじゃねぇかと思ったじゃねぇか!』

「、すまんすまん!」


な、んで俺...言わなかったんや...っ


『つかぶつかるとかアホかよ!』

「うっさいわ!」

「...誰と話してんの?」

「っ!?」


掴んでいる手が圧迫されるように握られて痛みが走った。でもここで声を上げればヤマトに気づかれる…いや、気づかれていいはずじゃないか…なんで俺はっ


『ん?誰かいんのか?』

「、はぁ?テレビの音ちゃう?...つかそろそろ仕事するから切るぞー?行けそうやったら連絡するわ」

『おー待ってる!』

「多分12時は過ぎるやろうな!」

『...じゃあまた明日な!』

「なんやねんそれ!アハハっ!んじゃ!」

『おぅ!』



ピッ


...出来れば、このまま切りたくなかった



「...やっと終わった?」

「っ!!」


一気に現実に戻された
コイツがいる
夢に出たコイツが...っ


「、何しに来た…っ、何でここがっ」

「店の名前見たら何となく分かるだろ。つかさ、一八は何で俺がいるって言わなかったの?」

「、それは...」


俺だって分からない...っ
なんでコイツの存在を言わなかったんや


「...俺と2人きりを邪魔されたくなかったんだ?」

「は、はぁ!?」

「一八も俺に会いたかったんだろ?」


違う...っ、そんな筈ない
会いたいなんて...俺はっ


「...ちが、う」

「...ふーん...嘘だな」

「う、嘘や、ない...っ」

「...じゃあ、体に聞いてやるよ」

「!?、や、やめ、ろ!」


グイッて引っ張られて思わず目を瞑ると全身を覆うような感覚がきた


「っ!?」

「...会いたかった」


鼻を掠めるコイツの香水...
耳元で聞こえる声、呼吸...
体で感じる濡れて冷たい...
けど確かな温もりを感じる


やめろ...あの日を思い出してしまう!


「は、離せ...あ、あまみ、や」

「.....広斗だっつってんだろ」

「...、あま、」

「...一八」


やめろやめろやめろ...っ!
甘い声で...囁くな...っ
やめてくれ...っ!


「、…ひ、.......広斗...っ」

「っ」

「んっ!」


あぁ...呼んではダメだって分かってるのに...っ

体や頭に植え付けられたコイツの存在を
呼び起こしてしまった



奪われる唇はあの日と同じ...熱くて、甘くて...頭が溶けそうになる。無意識に足が一本後ろに下がると近づいて、舌が絡まるとまた一本下がり...気づけば壁とぶつかり、下がることが出来ず快感を拾うだけになった


「ん、っあ...はぁ...っ、ん」

「...、一八...」


離れた唇の間に透明の糸が通ってて
それがプツンと切れる...


「...エロ」

「...ん、はぁ...っ」


低い声でそう言ったコイツは首に顔を埋めて唇が当たる感触、吐息を感じ、舌で舐められる


「あ、ゃ...っぁあ...っ」

「...もっと聞かせろ」

「く、っ...ん、は、...っ」

「...ん」


首から離れ、直ぐに近寄り唇を舐めて...
鼻先が触れるくらい顔を寄せた


「...一八、いつもどこで寝てんの?」

「、え...っ」

「どこ?」


その意味は、...そういう事だ

分かってるよ...これ以上はまたあの日の二の舞になる事なんて...でも、コイツのキスのせいで溶けた頭では...山王とかコブラとか理性とか、そんなものは全部無くなっている


「...あっち」


俺は自分の声とは思えないほど
甘い声で告げるとまたキスされ...


「...連れてって、一八」


まるで悪魔の囁きのようだった
でも体は言うことを聞いてしまっている

...黙って頷いた俺は手を引っ張って中に入ろうとしたがピタリと足を止めた


「ん?」

「...、」

「...なに?」

「...、シャッター...閉めさせろ..っ」




こんな所見られるわけにはいかない







もしこの時の俺に何か残ってるとしたら...アイツらに...特にコブラには見られたくないという...小さな抵抗と、大きな罪悪感だけだ



「...いいよ」




ガシャンと閉まる音
ガチャりと鍵を閉め



もう、逃げる事は出来ない





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