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その日はこの地区一帯雨に包まれた日のことだ
PM7:00曇り
「じゃあ閉めるからはよ外行け」
定時時間になって店仕舞いをしようとツインタワーの2人にそう言うとウッセーとか言いながらもちゃんと出てく2人。つかいちおー店長、ウッセーとか言うな。店にあった傘を二本渡して、この後雨降るらしいから持ってけ言うたら無言で受け取り軽く会釈して走ってった。ちょっと可愛いと思った
鍵を掛けて俺も飯食いに小竹にでも行こうかなと歩を進めていた。すると携帯に振動がきて…長い辺り電話やと気づいて画面をタップすると、珍しい男の名前が表示されてて慌ててボタンを押した
「ん、おお!なんやねんコブラ!」
『…声デケェよ、うっせぇ…』
「うっさいってなんやねん…」
お前は声小さいけどな!とはさすがに言えないからとりあえず用件を聞こうと話を振った
「んで?何の用なん?」
『…あぁ、今ヤマトたちと小竹にいる…』
「お、マジか。俺も今から行こうしててん。行くわ」
『…じゃあ』
じゃあ…って!え!?切った!用件が終わったから切ったんやろうけどスッパリし過ぎやろ!なんやねん…らしいけど…
もう少し…話したかった…
淡い想いは募ってくばかりで伝わる事なんてない
まぁ側に居れるからそれでええわ
そういう意味でコブラを好きになったのは最近の事だ。俺がララって子に騙された時、俺がみんなに迷惑をかけてしまったあの日…コブラは真剣に怒り…そして側にいさせてくれた。俺はもうあの日からずっと…
「おい」
背後から声が聞こえた。聞きなれない声…しかも…1人じゃない。くるりと振り返れば10人以上の人の群れ。おいおい、俺相手にその人数は俺のこと褒めてんの?
「…なんやねん」
「テメェ山王の人間だな…?」
「だったらなんや?」
「テメェんとこのアタマに会わせてもらおうか?」
アホか、そう言うて会わせる人間おるかい
かと言ってこの状況…マズイわ...はぁ…自慢の足を使ってやるしかないか。飯をいっぱい食うために腹空かせるほど走ったろうか!!
タイミングを見計らってスタート!!
出遅れた大所帯は二、三歩遅れて走り出した。ハッ!遅いわ!俺はもうすでにトップスピード入ったで!!しかも山王街なんて庭みたいなもんや!小道を走り人が分からなそうな道を淡々と走る。徐々に声が小さくなってきて一安心やと思った矢先…
「っ!はぁっ!?」
逃げ道に使う道が工事されてて通れない!?
嘘やろ!?くそッ!こっちや!!
違う道に出て走って行くと真っ直ぐな一本道になってしまった。しかも…このままやと小竹に着いてしまう。それはあかん…っくそッ!また脇道を通った、ただそれは…大きな間違いだった
「はぁっ、!はぁっ、!く、そっ!はぁっ、い、行き止まり…っ!」
しくった…まさかの行き止まりや…っ
こうなったら…っ
来た道に振り返る。この道幅は狭く人が2人分しか通れない道やった。まだ、運は逃げてない…
「っうおらっ!!テメェ逃げんじゃフグッ!」
「うっさいわ!!」
先制パンチを喰わらして次のヤツには回し蹴り、大人数対1やったら負けるけど…これやったら体力勝負や!!
ーーーーーーーーーーーーーーーー
PM8:00曇り
はぁっ、はぁっ、…っ
何人倒したんや…?
も、結構しんどい…っ
「らぁあっ!!」
「っ!?グッ!!」
不意にコメカミにパンチをもらってしまった。頭が揺れ膝にクる…っ。そしてもう一発脇腹を蹴られ、そこで俺は地面に手を付けてしまった
「はぁっ、!くそッ!時間取らせやがって…っ!」
「どーします、?はぁっ、こいつ」
「気ぃ失うまでボコッてコブラの居場所吐かせるんだ…コイツを囮に使ってな…っ!」
「グッ!!」
みぞおちを蹴られて仰向けに倒れる。一瞬呼吸の仕方が分からなかったけど、すぐに大きく咳をして小刻みに呼吸を整えた
「はぁっ、はぁっ、…ハハッ、俺が…言うん思うんか…?アホかっちゅーね、ん…グハッ!」
「うっせぇ!!吐けばいいーんだよ!!」
誰が…言うかよ…っ
仲間は売らねぇ…
コブラの居場所は…絶対に言わへん!
その刹那…
「ッグアッ!!」
「あ!?なんだ!?」
…え?
誰かの悲鳴が聞こえた
多分こいつらの仲間や…でも、なんで?
まさか…コブラ…?
淡い期待を抱いたが…
予想外の男に誰もが体を凍り付かせた
「……」
う、そだろ…なんでここに…
「こ、こいつ…雨宮兄弟の弟だ…っ!!」
「な、なんでここにいんだよ!!」
雨宮広斗が立ってる
会ったことない俺でも知ってる
俺だって知りたい…なんでここに雨宮兄弟の弟がいる…?敵対してるところではあるが…こいつら兄弟に関してはほんとに謎だ。九州にいるんじゃないのかよ…
「…て、テメェ雨宮…っ、何の用だよ…!」
「…はぁ?」
初めて発した言葉にピリピリとした殺気を感じた
マズイ、コイツは関わってはいけない…
俺はバレないようにゆっくり起き上がり、蹴られた痛みで立ち上がれず腰を地につけたまま後ずさった
「おい雨宮聞いてんのか!!」
アホ、お前らじゃコイツに勝てるわけない
「…うっせぇな」
そう言うのが早いのか手が早かったのか
閃光のような速さで男が1人倒れてた
はや、すぎる…っ
「っ!くそッ!!」
他の仲間も向かっていったが…無駄のない動きで次々の倒してく。恐怖を感じた…次は、俺かもしれないと
ドサッ!!と最後の1人が崩れ落ちた
ドクンドクンと心臓がバカみたいになってる
俺に気づいた雨宮は、ゆっくりと近づいてきた。俺は無意識にまた後ずさったがすぐ側は壁だ。あっという間に壁に背中が当たる…
「…」
「…っ」
見下ろすように見ていた雨宮は腰を下ろして俺と目線を合わせてきた。コブラのように鋭い目が俺を射抜く。目を、反らせない…
「…お前でいっか」
「、は、はぁ?」
「立てよ」
「な、んや、ね…グッ!!!」
俺の声なんかかき消すような音が出るくらいの拳が頬に当たった。その衝撃で倒れそうになるが踏ん張って四つん這いの姿勢になる。くそ、ちょーいて、ぇ…っ!さっきのやつらよりも遥かに…っ
「立てよ」
「っ!ぐっ…っ」
言ってることとやってることが滅茶苦茶だ
背中に足が乗ってる、立てるかよ…っ
「立てねぇの…?」
「っ!く、そっ!!」
「!」
ばか、にしやがって…っ!
渾身の力を振り絞って立ち上がった。まさか立ち上がるとは思わなかった雨宮は片足状態になってバランスを崩す。チャンスとばかりに足を掴んで転ばしてやった
「っ!」
背中を打ち付けた雨宮を置いて俺は全力で走った。痛みでさっきよりもペースは遅いが、ちょっとでも逃げて、小竹に行けば…コブラに…っ!
後少しで小竹に着く…っ!
「ッグアッ!?」
背中に重い鉛みたいに強い衝撃があってその勢いのまま、地面に転がった
「はぁー、テメェ…逃げんじゃねぇよ」
「ッア、グッ…っ!」
仰向けにさせられ胸ぐらを掴まれ体を起こされる
しめるようなキツさで掴むから息が詰まって呼吸がしづらい
「…ぐ、あ…っ」
「逃がさねぇよ、お前は俺の相手してもらうから」
「は、ふざ、け…グゥッ!」
「拒否権ねぇから」
あ、ヤバい…息が…ってか、意識が…っ
「…っく、こ、ぶ…っ」
「…は?」
「コブ、ラ…っ」
助けてくれ、コブラ…
か細い声でようやく絞り出した言葉は
コブラの名前だった
「へー、お前ご主人様がいんの?なんだソッチだったんだ」
ソッチ…?なんの、話…?
つか、もう何も考えらんない
「そのご主人様よりも満足させてやるよ」
その言葉はよく、聞こえなかった
PM8:25
ポツポツと降り出した雨
俺は雨宮広斗に拉致られた
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