.






AM02:00雨




土砂降りのように降り続ける雨がヘルメットに当たるとバチバチと打ち続けてく。雨宮は俺に貸したからヘルメットは被っていない。返そうしたが聞く耳持たずで…いつの間にか見慣れた景色が見えてきた



商店街に入る数百メートル先でエンジンが止まった


「…俺が送れるのここまでだ」

「…あ」


ありがとう…そう言いかけて、俺は止めた。なぜこいつにありがとうを述べなきゃいけないのかと思って…でもこの場合言った方が…いや、やっぱり…やめよう


「こ、ここらなら…歩けるから、平気」

「そっ」


ヘルメットを外して雨宮に渡す
無言で受け取った雨宮は俺を鋭い目で見つめた


「…っ、な、んや」

「…いや、返すのもったいねーって」

「っ、な」

「また見つけんの大変だろ?」

「さ、捜さんきゃえぇ…」

「無理。気に入ったから」


グイッと腰を引き寄せられて顎を掴まれる


「俺のもんにするって…決めたから。兄貴にも、誰にもやらねぇ…」

「っ、」

「せいぜいまた会う時までご主人と仲良くしてろよ?一八…」


そう言って触れるだけのキスを一度、軽く触れて俺を離し、そしてエンジンを再びかけて来た道を戻るようにあっという間に走って行った

呆気ない程最後は簡単に離れたな…
また、連れてかれるんじゃないかとひやひやしてた


雨足が強くなってきた…家に…帰ろう…



痛みが雨で増してズキズキと骨にまでくる。それでも歩みは止められない、歩幅は狭いが進んで行く。数十分かけ見慣れた近所の道に来た…やっと…着く


「…っ、?」


あれ…俺の家の前…?


「…っ、?!?こ、」


コブ、ラ…?


「っ!」


店の前に座っていたコブラも俺に気づいて勢いよく立ち上がった


「ダン!」

「…コブラ…っ」


あ、ヤベェ…コブラ見たら安心して力が…


ガクッと膝の力が抜けて倒れそうになったところをコブラ抱きとめて勢いを殺しながら地面に着いた


「おい、しっかりしろ…!」

「コブラ…っなんで…」

「お前のことは、道に転がってた連中から聞いた…雨宮弟のことも」

「っ」

「とにかく今は店入るぞ、鍵出せ」


そ、か…ま、そうだろうとは思っていた。鍵を出そうと思ったけど…ごめん、腕の力抜けてるから動かへん。雨の音に掻き消せない舌打ちが聞こえてコブラが俺のポケットに手を入れる。鍵は簡単に見つかった、俺の腕を自分の首に回して立ち上がり俺を支えながら鍵を開けて中に入った


中は不気味な程静かで2人の呼吸しか聞こえない


「奥連れてくぞ…」

「…あぁ」


さらに奥の扉を開ければそこから先は俺の住居スペースになる。和室の居間に運ばれて座らされた…そして、コブラと目が合った


「タオルどこだ、まず拭かねぇと…あと、ケガなんとかしねぇと」

「…洗面台のとこ…タオルある。ケガは…」

「ひとまずタオル取ってくる」


ケガは自分で…って言う前にコブラは立ち上がって探しに行ってしまった。体は…見られたくない…コブラには、特に…だから


「おい」

「…え?ぶっ!」


顔を上げた途端にバスタオルが顔面にぶつかって少し、痛いんやけど、てか俺怪我人!


「おま、え!」

「うっせ…ん?…あぁ俺だ」


文句の1つを言う前にコブラは掛かってきた電話に出た


「あぁさっき見つけた。だからもう大丈夫だ…いや、1人だった」



あ、もしかして…ヤマトか?
みんな、探してくれてたんや…


「今日は全員家に帰れ、明日伝える…あ?…わかった」


ん、と携帯を渡してきたから受け取って耳に当てると雨音と一緒に仲間の声が聞こえてきた


『ダン!平気か!?無事なんだな!?』

「…おぉ無事やヤマト。悪かったな」

『何言ってんだ、心配すんのは当たり前だろ?にしても…マジで良かった』

「…ありがとな」


ヤマトの安心した声に俺も安心する


『携帯掛けても出ないからマジで焦った』

「…すまん、壊されたんや…」

「…」

『壊さ…っ!?怪我は…どんな感じだ!」

「…えと」


怪我は…まぁあるけど…それ以上に…


「…ボチボチ殴られたけど、骨までいってへん。しばらく動けんけど大丈夫や」

『…、そっか。ま、無事に帰ってきて…良かった』

「…あぁ」


なんとも言えないな…
失ったものが大きいから…


ゆっくり休めよ、そう言って電話を切りコブラに返すと受け取ったコブラは服にしまい頭を拭き始めた。俺もゆっくり拭いてると勝手にハンガーを借りて上着やらシャツやらかけて…え


「…っ」


上裸姿のコブラにドキッとしてしまった。慌てて視線をそらし…もう一度見る。いつ鍛えたんだっていう肉体についつい見惚れてしまった


「…ダン」

「え?あ!え、なに!?」

「…携帯壊されたのか」

「あ、え、えと…おう」


意識がそっちにいってたから危ないと思って返事をすると一度首を傾げたが対して気にすることなく話し出してくれた。バレてなくてよかった…


「…フツーの喧嘩なら…雨宮弟は強い」

「…え?」

「だが喧嘩だけならそんな手間を雨宮がするはずねぇ…壊されるほどお前は追い込まれてたのか?


…ほんとに喧嘩だけか?」


こういう時のコブラは恐ろしいほど鋭い
蛇に睨まれた蛙とはこういう時に使うんやっけ?
しかも、答え辛い質問だ…


「…それは…っ」

「別に言えねえことじゃねぇだろ?雨宮兄弟とグルじゃなきゃな」

「!!ありえへん!誰がアイツなんかと!」

「…やっぱり雨宮弟になんかされたんだな」

「っ…」

「…何された?」


言え、ない…っ


「…言いたくな、い…っ」

「…」

「もう、大丈夫やから…っ」


そう言いながら無意識に流れた涙

アイツといる時には決して泣くものかと我慢してた涙がここにきて流れてしまった。そして寒さなのか、それとも思い出したのか…多分後者かもしれないが震え出す身体を両手で押さえる


痛かった
悲しかった
辛かった
悔しかった

アイツの顔が寂しそうだった
熱いキスをされた
優しく抱かれた
コブラと重なって見えてしまった
コブラに対する好きがダブってしまった
ありえない、俺は…何を考えてるんだ
最低だ…


もう色んな気持ちがぐちゃぐちゃに混ざって
濁流のように涙が止まらなくなった


「!…ダン、何されたんだ…」

「…っ、ぐ、い、言いたくな、い…っ」

「…言え.…っ」

「いや、だ…っ」

「…まさか」


コブラは詰め寄ってきて服に手を掛けようとしてきた


「っ!やめろ…っ!!」


バシッっと無意識に出た手…払い退けるようにコブラの手を叩いてしまったんだ


「っ!あ、すま、ん…っ」

「…」

「あ、コブラ…っ!」


払い退けられた手をまた俺の方に持っていき服を掴んできた。抵抗するけど力なんてそんな出なくて簡単に上の服を全部脱がされた


「…!」

「…っく…」


コブラは何に驚いたんやろうか


夥しい数の痣にか
無数の傷にか
それとも…首や胸にあるキスマークにか
…全部か…ははっ


「…お前…」


初めて聞いた、コブラの震える声
多分、ノボルのこと思い出したんやろうな


「…笑うやろ、男が…こんなんされて…あほかってな…、ほんとに…ありえな…っ」


ぼたぼた流れる涙が視界を覆ってよく見えない
だから急にきた感触に少し驚いてしまった
コブラが、抱きしめてきた
強く…強く…



「…、いい…悪かった。俺がもっと早く気づいてやれば」

「…コブラ」


そう言ってくれるだけ嬉しい…けど過ぎたことや
もう…えぇ


「…手当てするぞ」

「…自分でする」

「そんなわけにはいかねぇだろ」

「風呂にも入りたいんや!…そのまま来たから」


雨宮の匂いがまだ付いてるし
ケツの中にあるもんを取り出したい
だから、もう…


「じゃあお湯沸かすから待ってろ」

「いいって…」

「身体温めてねぇと風邪引くだろ馬鹿。これくらいさせろ。それに…立てねぇだろ」

「…すまん」

「…」


無言で立ち上がり去っていくコブラを視線で追って…下に向けた。何も考えたくない…ヤバイ、1人になるとまた涙が出てくる



「…おい、溜まるまではタオルに包まってろ」


戻ってきたコブラにタオルで覆われて、そのまま抱きしめられる。何も意味も無くしてくれるそれが…少し、辛く感じた






next