「好きだよ」
「私も、ハオ様が大好きです」

そう言って微笑むと彼は満足そうに仲間たちの元へと戻って行った。
ハオ様はなんて嘘が下手なんだろうか、と毎度のことながら笑ってしまいそうになる。私の力目当てなのは分かっているし、何よりあのハオ様が私を好きになるはずがない。それが分かっているのに何故こんな小芝居に付き合っているのかというと、単純な話なんだか面白そうだから。









「ハオ様」
「なんだい?」
「ハオ様は、私のどこがお好きなんですか?」
「...そうだな。たくさんあるけど、一番好きなのは笑った顔かな」
「笑った顔...ですか」
「ああ。すごく可愛いからね」

まずは少し困らせてみようと、男の人が一番嫌がりそうな質問をしてみた。
一瞬だけ面倒臭そうな顔をしたハオ様が、無理矢理に女の子がときめきそうな言葉を発したことに思わず吹き出しそうになる。が、そこはなんとか踏ん張って照れたフリをして俯いた。

「君は?」
「えっ」
「君は僕のどこが好きなの?」
「え...えーと、その」
「...答えられないのかい?」

なんてこった、まさか聞き返されるなんて。不意打ちにもほどがある。そこまでしてハオ様は私の力が欲しいのか。こんな小芝居をしてまで...健気なハオ様に内心感動してしまう。
ハオ様が私を好きでなくともいくらでもこの力差し上げるのに!

「なあ、どうなんだ?」
「私はハオ様の全てが大好きです」
「ふーん。僕のこと好きな割には、あいつらと同じようなこと言うんだな」
「え」
「具体的には?」
「え、えっと」
「ねえ...僕のどこが一番好きなんだい?」

あれ、なんだかおかしい。
いつのまにか私が彼氏みたいな立場になってる気がする。


「ハオ様の一番好きなところは...」
「うん?」
「アホなところ...?」
「は?」
「あ、いや違うかな...バカなところ?あれ、なんかそれも違う気がする...。可愛いところ?」

如何にこの質問が面倒臭く、困るものなのだと身をもって思い知った。だっていざとなると全くでてこない。こんなにもハオ様が大好きなのに。

「君、本当に僕のこと好きなの?」
「もちろん好きですよ!」
「...」
「あれ、あの、えーと」

ちらりと表情を伺えば、なんとも不機嫌そうにお綺麗な顔を歪めるハオ様。なんだかすごく気まずいのは私だけだろうか?というより、ハオ様は何故急に不機嫌に...。

「君は...」
「はい?」
「いや、なんでもない」

そう言って徐ろに立ち上がったハオ様はテントを出て行ってしまった。

「...うーん、ハオ様嘘は下手だけど演技力は半端じゃないのかもしれない」

なんか恋人の修羅場って感じだった。














無性にイライラした。
なぜ、と聞かれたら答えられないけれど。

#name#は他の奴らと違って一人ぼっちではなかったし、"救う"と銘打って近づくことができなかった。そんな彼女の力を手に入れるためには、僕を好きになるように仕向けるのが一番楽な方法だった。
#name#は自分が好きだと言えば照れ臭そうに笑った、自分が散歩に誘えば嬉しそうに笑った。なんだ、こんなにも簡単に落ちるものなのかと、内心嘲笑いながら好きだと囁き続けた。


でも、彼女から僕に言い寄ってきたことは一度もない。好きだとも言われず、彼女から僕に触れてくることもない。そのことをラキストに愚痴った時、彼はこれでもかというほどに目を見開いて僕を見ていた。
「なんだよ」と聞けば、なんだか嬉しそうに「それは#name#様と話し合われた方が良いかと...」なんて言っていたのを思い出す。


「なんなんだ」

苛立ちが治らずに、ただひたすら目の前の焚き火を見つめる。






「ハオ様!」
「...なんだい」
「私、ハオ様の不器用なところが一番好きです!」
「...は?」
「」






そう言って笑った#name#の顔は本当に可愛かった。
顔立ちとかではなくて、自分とは違い心の底から笑っているその顔が。






「...そうか、この僕がね」
「え?なんですか?」
「いやなんでもないよ。なあ、#name#」
「はいっなんでしょう!」

「愛してるよ。これから先もずっと、君を愛してる」


真っ赤に染まったその頬に軽く口付ければ、彼女は初めて僕から逃げて行った。























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