静かなリビングに素早いタイピングの音だけが響き渡る。
グソンは膨大な数の仕事に眩暈を覚えながらも、この落ち着いた時間が好きだった。
そんな中、似つかわしくない盛大で低いくしゃみが聞こえてきた。驚いてそちらに目を向けると、明らかに不機嫌な表情で鼻をすする槙島の姿。

「...」

読んでいた本から傍にあるテーブルの上へと視線を向ける。寝転がっているこの状態では、伸ばしてもティッシュに手が届かないと判断したらしい。嫌味とも取れるほど長く美しい足をテーブルへと伸ばす。コツッと指先にティッシュの箱の感触がすると、一層のこと足を伸ばして雑に床へと引きずり落とす。
そしてようやく手が届くところにティッシュが来たところで、何枚かまとめて適当に引き抜き勢いよく鼻をかむ。

「...旦那」
「んん?なんだい?」
「アンタ、意外と男らしいですよね」
「意外とってなんだよ。キミはたまに可笑しなことを言うね」

本人に一切自覚はないが、彼は誰が見ても美男子だ。天使と言っても過言ではない。それ故に"男"という言葉があまりにも不釣合いで。こういった如何にも雑な感じを見せられてしまえば何とも表し難い

「全く、こんなハイテクな時代になったと言うのに花粉対策が一切ないなんて。嘆かわしいにも程があるな...」

そんな文句を垂れ流しながら再度鼻をかむと、ゴミ箱の位置を確認することもせずに丸めたティッシュを投げた。


「ちょ、何してんですか!」
「...固いこと言ってくれるなよ、グソン。たかがティッシュの塊だ。二、三個落ちていたって何の問題もないよ」
「いや問題大アリなんですけど」
「そんなに気になるならキミが捨てたらいい。僕はゴミが落ちてようと一切気にならない」

しれっと言い切った槙島にグソンは思わず吹き出してしまう。

「ふっ...はははっ!」
「な、何で笑ってるんだい」





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