別次元を生きる彼女の結末


出来る出来ないの問題ではない、やらなければならないのだ。生きる中で毎日が選択の連続、それでも選択できないこともある。
例えば、今がその時だ。



「殺したいなら殺せばいい」

当たり前のように訪れる「死」を恐れる必要はないのだから。むしろ何故、人は死ぬことを恐れるのだろうかと、よく考える。
理由がどうであれ、楽に死ねることは滅多にない筈だ。病気で死ぬか、人に殺されるか、事故で死ぬか。たった三択、されど三択。




「バーボンのこと、わたし好きだった」
「...は」
「優しかった、笑い掛けてくれた、色々教えてくれた。なにより自分以外のモノの為に、頑張ってる姿が、大好きだった」
「僕に、取り入るつもりなら無駄ですよ」

嘲笑いながら告げれば、彼女は普段と何ら変わらぬ笑みを浮かべて首を横に降った。「ちがうよ」と小さな口から小さな音が吐き出される。


「最後だから、言っておきたかったんだよ」
「そうですか」
「バーボンは、幸せ?」
「は?」
「今、幸せ?」

ドラム缶の上に腰を下ろしている彼女の足は、ブラブラと規則正しく動いている。白く、細く、滑らかなソレを見れば「綺麗だ」と無意識に脳が告げた。
初めて会った時から思っていたことだ。彼女、#name#は、どこか別次元を生きている。整った顔立ち、真っ白な肌、揺れる白髪、

不思議なことに、誰も彼女を性の対象として見ることは無かった。奇怪なまでに


「アナタを殺せたなら、幸せになれるかもしれませんね」
「そっか。それなら、わたしは早く死なないとだね。そうすればわたしも幸せになれる」




「ねぇ、バーボン」
「何でしょう?」
「わたしがわたしでなかったら、」



「ほらね。そう言ってくれる優しいキミが、
わたしは大好きだったよ」
「時間です」
「ありがとう、そして、」

その言葉の続きが紡がれることはない。転がり落ちた彼女へと近付けば、毛虫が這うくらいゆっくりと血が広がっていった。左手の手袋を取って、確認するように掌を血の海に浸す。
血液は水とは違う。身体の奥にある

僅かに糸を引くのだ。そう、例えるなら精液や愛液に近い。


確かに死んだ。#name1##name#は、死んだのだ。もう彼女がこの世界に悲観し、苦しむことはないだろう。






secret