とりあえず、入れと促されて
どうにも気が進まなかったが
そもそも、これは仕事なのだからと言い聞かせてどうにか玄関に足を運んだ。

そんなガチガチに警戒している千里を見て、土方は深いため息を吐く。
一体、なんだって近藤さんは秘書じゃなくこいつを寄越したんだ。


「おい。…てめぇ、いつまでそこに突っ立ってんだ」
「えっ、あ、はいっ…」
「……(はぁ…)」

少し眉間にシワを寄せた土方に、千里は背筋に冷たいものが走った。
それと同時になにか違和感を感じる。


「あの、部長」
「…なんだ」
「寝ていなくてよろしいのですか?」
「1日中寝てろってのか?」


全然、元気だ。
ではなぜここに来ることになったのだろう?
皆目検討もつかない。


スタスタ廊下を進んでいってしまう土方のあとを追って、小声でお邪魔しますと言ったあと靴を脱いでリビングへ向かう。
部屋へ入って感じたのは、生活感のない無機質な雰囲気だった。
そこで土方はノートパソコンを開いて何やら作業中のようで。
こちらには目も向けない。

「あの…」
「なんだ」
「私、必要でしょうか?」
「…はぁ?」

だって、そうじゃない。
いる意味、ある?
しかも土方部長は元気そうだ。

しかし突然の彼女の発言に、
思わず手を止めこちらを見る土方。
やはり怪訝そうな表情だ。

「近藤専務に、部長のお世話を頼まれました。ですが…」

お世話って、何をすればいいの?
どこまですればいいの?
出発前に確認したが、土方に指示を受けるようにとのことだったのだ。

その話を聞いた土方はノートパソコンを閉じると手で額を押さえた。

「ったく…だから俺はいいって言ったんだ…。」
「え…」
「…この通り、俺はなんともねぇ。もう元気なんだよ。それなのに近藤さん、大袈裟にしやがって…」


近藤専務にそんな口が利けるのはやはり土方ぐらいだろうと驚く千里。
どうやら、土方と近藤の間でも何か話はしていたようだ。

確か、土方は近藤専務からの命令で1週間強制的に休むようにと言われている。


「…なんか…すみません…」
「なんでてめぇが謝るんだよ」

悪いことしたわけじゃねぇなら無闇に謝るな、そう言った土方。
確実にそれは苦笑混じりではあったが、そうだとしても笑った顔を普段会社で見たことがなかった千里はドキリと胸の音が大きく響いたのだった。






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