おそらく、この高校だったはずだ。

俺は家から毎日バスで通学しているのだが、そこで毎朝見かける一人の女がいた。
いつも途中で乗車してくる彼女は、大きなスポーツバッグを肩にかけていて、黒くて長い髪を1つに束ねている。

毎朝同じ時間に同じバスに乗っていると、だいたい朝の顔ぶれというのも同じで。
必然的に、彼女のことも覚えていたのだった。

前に一度だけ、彼女とは会話をしたことがあった。
本当に挨拶程度ではあったが、彼女の持つ大きなバックがバスの揺れで思いきり俺にぶつかってきたのだった。
すみません、痛くなかったですか?と申し訳なさそうに言われ、口下手な俺は、ああ、問題ない。と答えた。
…本当にそれだけのことではあったが。


「…はじめくん」
「………」
「おーい。」
「………」
「おい!斎藤!」
「…むっ…あ、土方先生」


今日はどうも総司のことを言えないらしい。
俺は土方先生の盛大なため息を聞いて、深く反省した。
いつの間にやら、意識が遠くにいく。
これでは己の剣に曇りが出る。

俺は、深く深呼吸をし、背をまっすぐ正した。





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