オフィスワークというものは、
常に女の戦いがひしめき合っている。
そして、それはこの会社も例外ではなく…


「千里、お昼行こう〜」


同僚の千姫が、フロアの入り口で手を振っていた。
それを見て、一旦仕事は中断するか…と、手元の資料を閉じて席を立つ。


「ねぇ、今日は何食べる〜?」
「今日はカツ丼!」
「なにそれ、男飯じゃない」
「今日はちょっと食べたい気分なの」
「なるほど、さては何かあったわね?」





カツ丼屋で席に着いて早々にため息が出る。
この会社での千里の役割は経理だ。
営業部と経理部が同じフロアにあり、
それが原因でどうにも頭が痛い。


「営業部の女たちが面倒なのよ…」
「もしかして、土方さん?」


千里はコクリと頷いた。
土方は、隣の営業部の部長である。
本来、経理部とはほとんど接点がないはずだが、土方は何かと千里に頼み事をするのだ。
土方は、そうでなくても容姿が抜群に男前だから、会社の女たちが放っておかないわけで。
やたらと話し掛けられている千里に対して敵対心を持ち、最近つまらない嫌がらせをしてくるもんだから面倒だと言うのだった。


「カツ丼のスペシャルセット1つ!」

「はいよ!」


あまりにイライラしている千里を見て、千姫は複雑な気持ちだった。
土方は、間違いなく千里に好意を寄せている。
千里自身、全く気付いていないが、
本当に整った顔立ちで女子がヤキモキするのも無理はない。
それに、土方の千里を見る目がとても優しいことにも気付いていた。
二人がくっついたら、絶対お似合いなのに。
千姫はお茶を啜りながらどうしたものかと考えていた。


あ…。そういえば。
もうすぐ会社のクリスマスパーティーがある。
このパーティーは年に1度毎年行われていて、
この日だけはみんなドレスアップして参加するのが恒例だ。
くっつけるならここがチャンスか…


「ねえ、千里」
「ん?」
「今年のクリスマスパーティー、あんた絶対参加決定よ」
「なっ…なんで?!やだよ、毎年不参加にしてるんだから」


そう。
いつも不参加にしている。
着飾るのも面倒だし、会社の女たちとうまくいっていない千里にとってはつまらないパーティーなのだ。


「千里が来ないから私いつも寂しい目にあってんのよ?」
「う…」


千姫にそれを言われると何も言えない…
だが、1度も参加していないわけで、
突然なんで?とか思われてまた面倒なことになったりしないだろうか。


「ドレスアップは任せて。知り合いがそういうの専門にやってるの。」
「で、でも…」
「でも?」
「…な、なんでもないです…」
「よし。じゃあ決まりね!」






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