お昼の帰り道、とても憂鬱だった。
あー、めんどくさいことになった。
いや、千姫はきっと心配してくれてる。
だけど、なんか企んでいるような…。
着飾るのはもうよくわからないから千姫の知り合いに任せるとして…
あとは、営業部と経理部の面倒な女たちをどうしたらいいものか…。
うーん…
悩みながらボーッと歩いていると、
千姫の、危ないっ!という声と同時に
階段を踏み外した。
「わっ…」
そのとき、
「…っと…大丈夫か」
土方が、落ちそうになった千里を後ろから掴んで抱き寄せたのだった。
命は取り止めたものの、その代わりにものすごい羞恥心が働く。
「うわっ…!」
「…なんだ、もっと色気のある声で鳴きやがれ」
まぁ、間に合ってよかった。
そう言って笑うと、土方は千里の頭を撫でてエレベーターへと向かっていった。
「大丈夫?!」
それを見ていた千姫が駆け寄る。
千里はあまりの衝撃にへなへなと座り込んだ。
千姫は、先ほどの土方を見て確信した。
土方さんは、千里にかなり好意を持っている。
いつもは鬼のような顔で眉間にシワを寄せて怒ってるのに、千里を見る目は、何か愛おしいものを見るようなとても穏やかな瞳だった。
…残念ながら、千里は全く気付いていないし、恋愛も疎い。
土方さんもどう攻めるか考えちゃうわけね。
座り込んで動かない千里を、なんとか立ち上がらせるとようやくエレベーターへ向かうのだった。
フロアに入ると、視線が痛い。
そりゃそうだ。
会社でも指折りの人気者にあんなことされて、こうならないわけがない。
しかも、机に戻ると仕事が山のようになっていた。
多分、嫌がらせだろう。
…土方さんは悪くない。
ただ、助けてくれただけ。
それに、話し掛けてくるときはいつも仕事のことで、接待費用の申請とか、余談はしない。
土方さんは、悪くない。
だけど、こうも周りの嫉妬がすごいと嫌いになってしまいそうだ…。
千里は一瞬心が折れそうになった。
が、変なところで対抗心が起動する。
こんなことで負けたくない。
この山積みの仕事、絶対今日中に終わらせてやる。
鼻息荒く、ドカッとイスに座って作業に取りかかる千里を見て営業部の沖田がカラカラと笑いだした。
「千里ちゃん、手伝ってあげようか」
「大丈夫、ありがとう」
「そっか。僕や土方さんが手伝ったらここにいる女の子達からのいじめが酷くなっちゃうもんね」
なんてことをぶっこんでくるんだ、沖田さん…。
でも僕はそんな女より頑張る千里ちゃんが好きだよーなんて言うもんだから。
さっきまで山積みだった仕事がなぜか減っていったじゃないか。
沖田さんって、かなりブラックだよね…。
いや、助かったけど。
沖田もまた、人気者である。
性格は少々難有りだが。
人の心を読むのはとても上手だ。
土方がなかなか言えないことを言ってあげるのも、彼なりの優しさなのである。
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