どこまでもついて行きます!
季節も一巡し名字の真選組勤務は一年になり、また春がやってきた。
麗らかな日差しを浴びて、斉藤と名字は見廻りをしていた。
「隊長!本日はどこへおでかけですか!?」
少し悩むように斉藤は目線を宙に浮かせた。
「甘味処はいかがでしょう!!美味しいものを食べ、かつ、そこにいるだけで犯罪抑止になりますよ!!!」
ぱっと音を立てて朝開く花の割れ咲くような笑顔で、斉藤の方へ向いた。そんな名字は可愛らしく思わず愛おしげに見つめる。
すると名字は照れたように、目線を右往左往させた。
「お母さんに挨拶いきたいし…、町の人もおしゃべりしたいし。」
名字は斉藤の視線を、また食い意地を張ってるというふうに受け取ったらしく、へへへとだらしなくはにかんだ。
そんな名字に、胸の奥が締め付けられるように甘く痺れる。自分の抱いている感情は名字にないのはわかっている斉藤は、隠すようにコクリと頷いた。花が咲き乱れるように顔を緩めると、名字はまるで兎のように跳ねて先に行く。
人混みに紛れてしまう名字に、ハッとして斉藤のは手をのばすと、川に反射した太陽が視界を奪った。
宝石箱の中のような眼の中で、名字は一段と輝いて見えた。この世界にある光を一身に受けて輝く、月。まだ昼間のはずなのにその月は、どの輝きよりも一番眩しく目がくらむ。
その隙に名字は月に溶けて消えてしまった。斉藤は白い世界の中辺りを見渡し探す。このまま見つけられず何処か遠くへ、会えない星へと行ってしまうように思えた。
心の中を掻き毟られるような、激しい焦燥が斉藤をおそう。
「……名字、さ ん…!」
カラカラの喉をこじ開けて、苦しいを出す。
「はい!」
その声が聞こえると魔法のように、パッと元の世界へ戻された。斉藤をきょとりと見て、目をパチクリとさせた名字は目の前にいた。心の掻き毟られた痕がじわりと焼けるように、チリチリと痛む。堪らずに名字の手を掴む。自分が自分でないような気がしてきて、斉藤は頭がぐちゃぐちゃになった。
「…どこかへ、いってしまうかとおもいました。」
斉藤がそう言うと名字の一回りも二回りも小さく細い手が、斉藤の筋張った手を隙間無く覆う。
「私、隊長以外のところにはいかないですよ。」
「……本当、ですか。」
名字は斉藤の心を見透かしたように言うと、斉藤は余計不安になる。
真っ直ぐ斉藤を見詰める名字の瞳は、砂糖水のように甘やかで暖かく溺れてしまいそうだった。
「真選組に入隊した時から決めてたんです、」
どちらともなく指と指を絡ませると、そこから溶け合うような感覚がする。
「貴方にどこまでもついて行きます!」
第一部『どこまでもついて行きます!』完
2016-10-10
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