あらすじ…誘拐した人と一緒にご飯を食べる事になりました。
05
「そうだ、馬乃介さん。私の携帯返してくださいよ」
「お、そうだったな。これが無いと俺とアンタの愛の通信が出来ねえからな」
「気持ち悪いですね」
はぁ、とため息混じりに訴えると内藤さんがポケットから携帯電話を取り出した。
それを受け取ると、内藤さんは嬉しそうに笑った。
「すでにアドレス交換は済んだからな」
「勝手に!?」
「ちゃんと俺用の受信フォルダも作って振り分けておいたぜ」
「なんて宇宙規模のお節介なんでしょうかね!」
また大きなため息を吐きながら携帯を開き――瞬間、待ち受け画面に私は驚愕した。
「のぎゃあああ!? なな、何であなたの写メが私の待受になってるんですか!」
携帯を開くとデカデカと写っている馬乃介さんの顔が目に入った。
わざわざ私の携帯で自撮りしたのだろうか。想像するだけで身の毛がよだつ。
私が震えていると、本人が親指を立てながら言った。
「カッコイイだろ? キスしても構わんぞ」
「削除!」
「おい何してんだよ!」
「はぁ……もう夢見が悪くなるようなことしないで下さいよ……」
私は携帯をパタンと閉めた……と、同時に嫌な予感がした。
「馬乃介さんとやら、あなたの携帯を見せて下さい」
「フッ、言われなくても見せてやるよ……くらえ!」
彼は自信満々に自分の携帯の待ち受け画面を見せつけてくる。
そこには、同じくデカデカと私の間抜けな寝顔が写っていた。
「ぎゃああああああああああ! 没収です!」
「させるかよ!!」
私が馬乃介さんの携帯を奪い取ろうとすると素早く懐にしまった。
両手の拳でポカポカと馬乃介さんを叩くが全然効いていない。
「これは俺の宝物だ。そう簡単に消されてたまるか!」
「言ってることはカッコイイはずなのにやってることはすこぶる気持ち悪いです!」
「この写メを拡大してタペストリーを作ったりクッションを作ったり抱き枕を作るんだ!」
「うわああああん怖いよおおぉ!!」
私はこんなのと友達になろうと思っていたのか。
これ以上私を被害者の位置で巻き込まないでほしい。
「さ、名前。飯に行こうぜ? なんならアンタの手料理でも……」
「馬乃介さん、そこに座ってください!」
「何だ?」
私が床を指さすと馬乃介さんはそこに座り込んであぐらをかいた。
「違う! 正座です、正座!」
「ど、どうした名前…!」
私が厳しい声で叱ると馬乃介さんはすぐにあぐらを直して正座をする。
そして私は今までの不満をぶつけるように怒鳴りつけた。
「そりゃもう怒りも頂点に達しますよ! いいですか馬乃介さん、このままじゃ恋人はおろか友達にすらなれませんよ! あなたの人との接し方には決定的に欠けているものがあります!」
「こ、恋人はおろか……」
シュン、とうなだれる馬乃介さんがちょっと可愛くて少しだけ許しそうになってしまった。
くっ、大の男が頭を垂れる姿にキュンとする日が来るなんて。
「まずは、思いやりを持って下さい。自分の気持ちを押し付けるだけでなく、相手の気持ちを考えることも大事です!」
「任せろ。俺はアンタのことなら何でもわかっている」
よくもまあ自信満々に嘘を吐けますね。
出会ったばかりで何がわかるって言うんですか。
「あと、ピッキングをしないでください」
「わかった」
「盗撮もしないでください」
「……善処する」
私は何をお願いしているのかわからなくなってきた。
そもそもピッキングと盗撮はお願いしてやめてもらうものではない。
犯罪行為であることをまず自覚してもらいたい。
「私の話を聞いて下さい」
「おう」
「それと……」
「……?」
「…私の気持ちも考えて下さい」
「……おう」
何故だろう、妙に恥ずかしいのは。
別段、特別な意味を持った言葉ではないけれど聞きようによっては恋人のお願いみたいになってしまった。
馬乃介さんもどこか意識したような返事をするので私は複雑な気持ちになった。
「じゃあ、ご飯行きま……あっ、」
「どうした?」
「そういえば私、熱が出て休んだ事になってるじゃないですか。外出して会社の人に会うのは良くないと思います……」
「ああ、そういえばそうだったな。仕方ねえなあ」
「あなたが勝手に電話するからじゃないですか! しかも夫とか言うし!」
原因も結果もつくったのは馬乃介さんだ。
私は馬乃介さんの肩を掴んで揺さぶる。
「まぁまぁ、俺は肉じゃがで十分だから」
「何の話ですか!?」
「昼飯の話だ」
「作りませんけど!? 私、料理はヘタですし!」
「なん……だと……」
私の言葉に馬乃介さんは衝撃を受け、わなわなと震えだす。
作らない宣言か、料理がヘタ宣言か、どちらに衝撃を受けたかはわからない。
「料理がヘタとか、萌えポイントすぎるだろ…!!」
そっちか。
ていうか萌えとか言わないでください。私とは程遠い単語です。
「ならそれこそ俺の為に作ってもらおうじゃねえか!」
「ぅえっ!?」
「花嫁修業だ、悪くないだろ?」
……正直なところ、私は料理が嫌いなわけじゃない。
食べるのが自分だけなら気合を入れる必要もないと思って、あまり料理をしてこなかっただけで。
でも誰かが食べてくれるとなれば、きっと私の破滅的にアレな料理もきっと少しはマシになるだろう。
そして私の料理を食べてくれる人が居るのが何だか嬉しく思えた。
「食べてくれるんですか? 大したものは作れませんけど……」
「おう! すげえ楽しみだ!」
こくこくと首を振って頷く馬乃介さんは、とても嬉しそうな顔をしていた。
……別に馬乃介さんの為に料理を作るわけじゃない、少しは料理の腕を成長させたいだけだよ。
自分にそう言い聞かせて私はキッチンへと向かったのだった。
(20120510 修正20160727)
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Smotherd mate