004-2(2/2)


『それじゃカノンサマ、あの遠くからこっちに向かってきてる魔物にレッツウインドカッター!』

「うわっ、ホントだ魔物…って、あたし譜術使えないってば! さっき試したもん!」

『さっきはさっき! 今は今!』

「えぇっ!? ちょ、何すんの!? … ひゃあっ!?」


シルフはパアッと顔を輝かせて笑いながら、あろう事か、あたしが持っていた片手剣とショルダーバッグを音素に還して背中を押してきた。

ただ背中を押されただけなら躓きそうになるくらいだろう。けどね、おかしいんだ。

どうしてあたしは宙に浮いてるわけ?

地面に足を付けようとバタバタしても足が動かない。なにこれ怖い。
敵さんとはもう少しでこんにちは状態。最悪殴ってもいいけど手が逝く。ライガ・クイーンに会うまで極力怪我は出来ない。


「っ、あぁ、もうッ!!」

『いっけー、カノンサマ♪』

「ぅ、ウインドカッター!!」


体内の第三音素を放出するようなイメージをしながら、両手を前に突き出してぎゅっと目を閉じた。

ーー瞬間。
鋭い風の音と、肉を裂く音と、魔物の断末魔。

まさか、と目を開くと、魔物がいた場所に音素の粒子が飛んでいた。つい、瞬きをする。


「…マジでか」







「…なるほど。何となく分かったよ」

『うん。わたしもあんまり知らないんだけどね』

「それは……いいのか悪いのか…」


譜術の練習と称して辺りの魔物を一掃してから、シルフから精霊について色々と話を聞いた。

精霊というのは、意識集合体とは似て非なるものなのだそうだ。

意識集合体は極めて純度の高い音素が一定数以上集まり自我を持ったものを云うのに対し、精霊はシルフで例えると構成されている主な音素が第三音素であって、微量ながら他の音素も混じっているらしい。

人間とは根本的に違うが、意識集合体とも言えない。シルフは精霊は意識集合体のなりそこないだと比喩した。

因みにあたしに就いている精霊はまだまだいるらしい。
ネタバレになるから言わない*だなんてメタい発言をされたが、少なくとも第一*第六音素の精霊がいるらしい。

喚べば出てくるようだけど、きっかけが大事だとかなんとか。よく分からない。

そしてこれが一番重要なんだけど、シルフは何故あたしに就いているのか、何故あたしが精霊のお陰で譜術を使えるのか知らないそうなのだ。おい、四大精霊…。


『まぁ、これでカノンサマが悩んでた譜術は使えるようになったし、わたしは還るよ*』

「うん…。確かに譜術は使えるようになったけど……」

『あれ? カノンサマ、何か心配事でもあるの?』

「…ライガ・クイーンを殺さないでチーグルや人間と共存させる方法、ないかな」

『!』


藁にもすがる思いで言葉を振り絞って声にすると、ゆらゆらと飛んでいたシルフが突然ぴたりと止まった。

驚いてシルフを見ると、目を見開いたままあたしを凝視していた。…な、何…?


「あたし、そんな変なこと言った…?」

『! …ううん。新しいなぁと思って♪』

「(新しいってなにが…?)
問題はライガ・クイーンなんだよね。確か卵が孵化直前の時って気性が荒くなるとか」


そうしたら話を聞いてもらえないどころか、襲われる可能性だってある。

腕を組んで、むむむと唸りながら悩む。

アリエッタを連れてきたら早いかもだけど、今からなんて時間がない。…どうしたものか。


『別に簡単なことじゃないかな?』

「…え?」

『カノンサマは自分を信じれば大丈夫!  なんとかなるよ! とりあえず、通訳はわたしに任せて♪』

「……ありがとう。じゃあ、お願いしちゃおうかな」

『うん。それじゃわたし還るね。またね、カノンサマ』


にっこりと笑ったシルフは出てきた時と同じようにぽふん、と煙を立てて還っていった。

自分を信じれば大丈夫。…なんて根拠の無い言葉なんだろう。
この世界は思ったより甘くないのだ。生きるか死ぬか、常に隣り合わせで気が抜けない。

……ただ、少しだけ。
少しだけ死ぬ覚悟で臨んでみてもいいかななんて思った。

そろそろ宿に戻らなければいけない。もう日があんなに高く昇ってしまっている。

それに、お昼まで寝るであろう寝坊助くんを起こさなくちゃだし。
べ、別に寝込み襲おうとかそんなことは考えてませんよ…。ええ、本当に。



To Be Continued...


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