004-1(1/2)


朝日が昇り始めると共に起床したあたしはいてもたってもいられず、ティアに書き置きを残してから街の外に出た。

本当に譜術が使えないのか確認がてら修行しにきたのだ。

結論はこうだ。


「使えない…」


004
『意味深な言葉』


どれだけ体内のフォンスロットを開いても結果は変わらず、譜術どころか音素を取り込むことすら出来なかった。

何がいけないんだろうか。以前は使えていたはずなのだ。いつまで、どうやって、使えていたのかが思い出せないのだけども。

それに、譜術のこともだけど今日のことも考えなければいけない。

ライガ・クイーン。人間にとっては害獣でしかない存在。
生かしたら多くの生命が失われるかも知れない。でも、殺したらあの子が悲しむ。

説得して、ダメなら。…いや、あたしには出来ない。だからって、ジェイドにトドメを刺してもらうなんてことも出来ない。
そうしてしまったらどうなるか知っている後ろめたさと罪悪感が邪魔をして、結果的に最善の策を見い出せないでいる。

あたしにもっと力があれば、記憶があれば。そしたら今頃答えが出ていたろうな。

そんなこと考えても仕方がないというのに、たられば話に思考が持っていかれてしまって眉根を寄せると、ふわりと優しい風が吹いて髪の毛を揺らした。

なんだかそれが後ろから髪の毛を引っ張られてるみたいに感じて、その感覚が懐かしくて思わず顔が緩んだ。

──なんか、シルフがイタズラしてるみたい。

そんなことをふと思って、一拍置いたあとに首を傾げた。

あれ?シルフって意識集合体だよね…。
でもなんだろう、このもっと近い存在のような…。


「シルフ…?」

『はぁい! カノンサマ、呼んだ?』

「…………え」


ぽふんっと煙と共に目の前現れたのは、普通の人を1/3くらいに縮ませたような、風の妖精みたいな、そんな女の子。

え…、え? まず誰この子。人間…っぽいけど違うよな……、え?

頭の処理が追い付かなくてぱちくりとその子を見詰めていると、イタズラっぽく笑われた。かわいい。


『カノンサマ、今回は忘れちゃった?』

「え、えっ? えっと…?」

『…そうみたいだね』


少し悲しげに笑った女の子は、ふわふわと飛びながらあたしの周りをくるくる周り始めた。動く度に第三音素が舞っている。綺麗だ。

ちなみにあたしの脳みそは未だに正常に動かない。


『でもわたしを喚んだってコトは、記憶が完全にないことはないんだね』

「そ、そう…かも? 現に、自分のことくらいは多少思い出せるけど…」

『わたし達のコト、忘れちゃった?』


ふわふわと飛ぶのをやめた女の子は、あたしの目の前でピタリと止まって、じぃっと目を見つめてきてそう問い掛けてきた。

女の子……シルフのこと…?

あたしの、記憶。


「い…っ」

『カノンサマ、大丈夫?』

「う、うん…」


記憶を辿ろうとすると頭の奥がズキズキするのは、思い出すなっていう警告なんだろうか。

とりあえず思い出すのはやめて、眉尻を下げながらシルフを見る。


『んー、そっかー…。…うーんと、じゃあとりあえず…!

カノンサマは第三音素の譜術を使えるようになりました!』

「…え?」


ちゃっちゃっちゃーん!と、よく分からない効果音を付けながらお花を飛ばして爆弾発言をするシルフ。

ちょっと待って、どういうこと?


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