001-2(2/2)
「なぁ」
「…ん、なぁに?」
ティアに回復譜術を掛けてもらいながら、少しぼーっとしてしまっていた。
何故か、記憶が曖昧な部分が多々あるのだ。軽い記憶障害だろうか。
ぐるぐると考えを巡らせていると、前の方に立っていたルークが振り返りながら話し掛けてくれたのでハッとして笑顔を作った。
「お前、さっき何やろうとしてたんだ?」
「さっき?」
「ほら、こうやって…」
と言いながら右手を前に突き出したルーク。その仕草が可愛くてにやけそうになる。…じゃなくて、譜術のことか。
つい、言葉を濁すと、面白くなさそうな顔をされてしまった。
…だって、失敗しただなんて恥ずかしくて言えないもん。
「譜術じゃないの?」
「…うっ。……そ、ソウデス」
「へー、お前譜術使えんのか?」
ティアの鋭い指摘に肯定せざるを得なくなって頷くと、ルークにキラキラした目で見つめられた。何それ可愛い死にそう。
使えるっていうか、使えていたから、使おうと思ったんだ。
……使えていた? いつから?
「……なんか、調子悪くて…」
「はぁ?」
「だ、だからさっきは助かりました。ありがとう、二人とも」
不思議そうな顔をする二人に頭を下げて、それから口を閉ざした。
もうこの事については話したくない。
……だってあたしも分からないんだ。
自分のことも、過去のことも。
でもどうしてか、これから起きることがハッキリと分かる。
ふたりの聖なる焔の光の最期と、あたしの使命。
「ねえ、カノン。私達はここを出るけど、あなたはどうする?」
「…ん、じゃあ一緒に行かない? あたし、フリーの傭兵やってるんだ。腕は確かだよ」
「そうね。あなたがいると心強いわ。それじゃあ報酬も出すから、お願い出来る?」
「うん。よろしくね」
やったぁ! まさかついていけるなんて…!
…といってもティアのことだから、あたしのことを疑っている部分もあるに違いない。
なんてったってこんな場所、況してやこんな時間にひとりでいるんだもんね。
あたしだってそんな人がいたら普通に怪しいと思うし。
お互い詳しい訳を話せないのはちょっと嫌だけど、仕方ないっか。
「ルークもそれでいい?」
「…」
「ルーク?」
「! あ、ああ…」
何故なのか、ティアが顔を覗き込むまでルークはぼーっとしていた。ハッとしてからも表情はどこか浮かないものである。それもまた可愛い。
大方、これから屋敷に帰るまでに魔物と何度も戦わなければいけないとでも考えていたのだろうか。
そしたら私にできるコトは、ここを出るまでできるだけルークと魔物を接触させないことだ。
グッと手を握り締めてからルークにへらりと笑って見せた。意味が分からない、といった顔をされる。ご褒美です。とても。
To Be Continued...
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