002-2(2/2)
「…ん…ッ!?」
辻馬車の心地よい揺れで眠ってしまっていたらしく、そっと薄目を開けると視界の端に朱色が見えた。頭に乗る謎の重みと、お高そうなシャンプーの香り。
ここここっ、これってもしかして…!!?
よしっと意気込んで目を開けようとしたら、外の方から爆発音がして辻馬車が大きく揺れた。…頭が軽くなってしまった。
「な、なんだ!?」
慌てて飛び起きたルークが窓の外を覗き込んだので、続けてあたしもルークの隣に立って窓から身を乗り出して外を見る。
タルタロスでかっ!!かっこいい!!
「おー、かっこいい」
「お、おい! あの馬車攻撃されてるぞ!」
「軍が盗賊を追ってるんだ! ほら、あんた達と勘違いした漆黒の翼だよ!」
確か、明日はタルタロスに乗ることになるんだっけ。って言っても強制連行なんだけど…。いや、それでも興奮してきた。
「そこの辻馬車! 道を開けなさい! 巻き込まれますよ!」
おおおお!! たっ、大佐だ〜〜!! 明日は大佐にも会えるんだ…!
ニヤニヤしそうになっていると、辻馬車が急旋回したようで慌てて窓枠にしがみついた。…も、もう少しで投げ出されるところだった。
そうしていると、橋の周りの第五音素が濃くなっていくのが感じ取れた。
あ、譜術障壁だ。
「…か、かっこいい〜!!」
「すげぇ! 迫力〜っ!」
「うんうん! やっぱり生で見るタルタロスはかっこいいね!」
「タルタロス?」
ルークの問い掛けと同時に、呆れ顔をしていたティアも首を傾げながら見上げてきた。
今まで騙してるみたいで胸が痛かったんだけど、うーん、仕方ない…よね。
それを顔に出さないようにしながら、ティアの隣に座った。
「マルクト軍の最新型陸上装甲艦、タルタロス! ってね」
「マ、マルクト軍!? どうしてマルクト軍がこんなところを彷徨いてるんだ」
「どうしてって…。んー、キムラスカと戦争がどうとかで警備が厳重らしいからかな」
「…ちょっと待って。ここはキムラスカじゃないの?」
「ううん、マルクトだよ。…もしかして首都ってバチカルのことだった?」
「当たり前だ!」
不機嫌オーラ丸出しのルークが詰め寄ってきて、思わず目を伏せてしまった。
すると、ルークの今度の怒りの矛先はティアに変わったようで、それに気付いたティアは外に目を向けた。
「…間違えたわ」
「冷静に言うなっつーの! なんで間違えるんだよ」
「土地勘がないから。あなたこそどうなの」
「俺は軟禁されてたんだ。外に出たことねーんだから、分かるわけないだろ」
ティアがハッとした顔をして、胸がちくんと痛くなった。
仕方ない、はずがない。
「あたし、二人の行きたい首都ってグランコクマだと思ってたんだ。ちゃんと聞いておけばよかったね。ごめんね」
二人を交互に見て謝ると、ティアはしゅんとしてしまって、ルークは納得がいかないという顔で隣に腰を掛けた。
…今更だけど、二人に挟まれてるとか美味しすぎる。ふふふ…。
「で? どーすんだよ」
「えーっと、さっきの橋がローテルロー橋だから……一番近いのはエンゲーブだね。そこを通るようならエンゲーブで下ろしてもらおう」
「…ああ」
おじさんに確認をすると、エンゲーブを通るようなのでそこで下ろしてもらうことになった。
…エンゲーブに着いたら色々忙しくなるなぁ。しっかり気を張っておかなきゃね。
To Be Continued...
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