13
コポ‥‥コポ‥‥
深夜の水温が体を刺す。
小さな気泡が僕の口から水面に向かって放たれていく。
日向くん、意識がちゃんと戻って良かった‥‥。
僕にはあれくらのことしかできないけど。彼の救いになれたのかな‥‥。
危険能力系に入り任務をこなすようになって、だんだんと生きることが嫌になっていた。ついさっきまで生きていた人間がただの肉片になる様を、ただ見る事しかできない日々だった。
帰る場所もない今、何のために生きているのか分からなかった。
ぶくぶくと真っ暗な暗闇に深く沈むような毎日。
君はただ人を殺すために生きている。
そうみんなが僕の後ろ姿を指さして言っているような気がした。
もう、いっそのこと死んでしまいたい。とずっと願っていた。
それなのに、
『ッ凪!!』
湖に落ちる瞬間に聞こえた日向くんの声。力いっぱい伸ばす君の手に、
『‥‥ッア』
闇の中でしか生きていけない僕は縋りたくなってしまった。
ザバァっ!!!
「ハァハァッ‥ゴホッ‥‥‥おいっ!」
「ごほっ!ハァハァッ‥‥」
肺が求めていた酸素を必死に取り込もうとする。
「ゴホッ‥‥ハァハァッ」
日向くんに引き上げられ湖から上がる。お互いに噎せ上がり、肺に入った水を必死に体外へ出そうとするたびに胸が大きく動いた。
二人とも着ていた制服はびしょ濡れになった。
「バカかッ!!」
僕に馬乗りになり、制服のえりを掴みかかってきた日向くんが言った。
彼の顔を見上げればいまにも泣き出してしまいそうな、そんな顔をしてた。
「自己犠牲なんかしてんじゃねぇよ‥‥」
僕の肩に顔を埋める。
口から出ていく言葉はどこかか弱々しかった。
「ごめん‥‥」
僕も同じように、日向くんの肩に顔を埋める。呼吸をする度に僅かに鼻をくすぐる彼の匂いにすごく落ち着いた。
「‥‥ッ?!」
暫く、二人でくっついていると日向くんがいきなり顔を上げた。
「お前‥‥女か‥‥?」
「ぇ‥‥?」
日向くんの視線は、水に濡れたせいで制服が身体に張り付きわずかに膨らんでいる胸部を見ていた。
「アッ‥‥ちがっ‥‥」
さっきまで湖の水のせいで冷えていた身体が更に温度を下げたことがすぐに分かった。彼の腕を振り解こうと必死にもがくが、身体中の傷のせいで上手く力が入らず無意味な抵抗に終わる。
「お、おいっ、落ち着けッ‥‥」
「や、だッ‥‥離してッ‥‥」
彼を激しく拒みながらもがく僕の両腕を掴み落ち着かせようとする。
「お願 いッ、だれにも、言わないでッ‥‥」
急に激しく動いたせいかどんどん頭がクラクラしてきた。瞼もだんだんと重くなっていく。
「とりあえず落ち着けッ‥‥」
「いやぁッ‥‥」
ギュッ‥‥
心地よい体温と、落ち着く匂いに身体が包み込まれて意識は黒塗りの世界に変わった。
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