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フワフワとする。夢の中にいる様な感覚。







「おはようさん、凪」








眩しくて目を開けるのがやっとだったのに、聞こえてきたその声に反応して半分しか開かなかった目を大きく見開く。






「爺様っ!」






目の前にはいつも通りしっかりと自分の足で立ち、門徒のみんなとおそろいの紺色の作務衣(さむえ)を着た爺様がいた。




急いで駆け寄り力いっぱい抱きつく。






「よしよし。」


「身体、大丈夫なの‥‥?」






何よりも気になっていたそのことを聞けば、変わらない笑顔で答えてくれた。






「わしのこと、聞いたみたいじゃなぁ。」


「うん‥‥」



「なぁに、心配いらんよ!まだ凪の花嫁姿をみとらんからのぉ!!!」







そう言っていつものように大きな口を開けて豪快に笑った。





「僕、女の子に戻れるのかな‥‥」





ずっと、ずっと男の子として振舞ってきた。その事にも慣れてしまった。今更本当の自分をみんなが受けいてくれるなんて思えなかった。



そして、その事実を一番に日向くんに知られた。






「凪は、その子のことが大切なんじゃな‥‥」






嬉しそうに顔のシワをくしゃりと寄せあったかい掌で頭を撫でてくれる。





「だから、本当のことを受け入れて貰えるか不安なんじゃろう」






大切‥‥不安‥‥。






「寺にいた時の凪は、少し感情が乏しかった。けど今はあの少年のおかげでたくさんの思いや、感情に気づくことができてお前さんを素敵な未来に導いてくれる。ワシはそう思っとるよ」







ゆっくりと優しく爺様に包み込まれる。







「もうお行きや。あの学園でたくさんの事を学んでおいで。」







光に包まれて再び目を開けた時、目の前は白く汚れのない天井。薬品の匂いが立ち篭める病室だった。







「起きたか?」

「日向くん‥‥」





首を少し動かして横を見れば、ベットの脇の簡易椅子に座っている日向くんがいた。
さっきのは、夢‥‥?






「あの後、高熱出して2日間目を覚まさなかった」







2日間も‥‥
きっと水龍のせいかな‥‥




「お前が湖に落ちた時、心臓が止まるかと思った」





俯き、らしくない声色で呟く。
まるで、さっき爺様とお話していた自分を見ている気がした。






「いなくなるんじゃないかと思った」




あぁ、彼も“不安”なのか‥‥。




「いなく、ならない‥‥」

「凪‥‥?」


「僕、君のこと大切みたい‥‥だからね」






痛々しくも包帯を巻かれた右手を、彼の方に伸ばす。





「僕の話、聞いてくれる?」





彼は、ゆっくりとその手を握ってくれた。


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