16
そして 物語は動き出す。
−−−−−−−−−
「んッ‥‥」
「凪?どうした?」
昼休み。
翼くんと一緒に北の森でお昼寝をしていた。その時風に乗ってきた微かに何かが焼けた匂いに気付き目を覚ます。
「棗か?」
「たぶん‥‥」
「早く行ってこい!また昼寝しよーぜ」
「うん、またね」
翼くんに手を振り、犬神に変化して北の森を後にする。棗の匂いは‥‥
「本部‥‥?」
匂いを辿って行き着いたのは学園本部だった。建物の中に入りキョロキョロとしながら棗がいるであろう部屋を探す。
『ぎゃぁぁぁ!!!』
ある一室から聞こえるのは女の子の悲鳴。なんとなく、あそこに棗がいる気がする‥‥。
前足を器用に使い部屋の扉を開け、中に入る。そこにはツインテールの女の子の上に馬乗りになっている棗と、それを見ている流架の姿があった。
「めっちゃでかい犬ぅぅぅうううう!?」
さっきまで棗にいじめられて絶叫していた女の子は僕を見てまた叫び出す。
びっくした‥‥そのせいで変化が解けちゃった。
「うるせーよ。凪がびっくりするだろ」
「ぎゃぁぁぁ!辞めろ変態ッ痴漢んんんんん!!」
なにこれ‥‥。
近くにいる流架に事情を聞く。
「俺もさっき来たからよく分かんないっていうか‥‥」
「そうなんだ‥‥」
ワイワイぎゃあぎゃあ。ソファの上で取っ組み合いをしている2人。せっかく助けに来たけど、流架もいるから大丈夫かな?
ぼけーっとふたりを見ていた時
あれ?鳴海先生の匂い‥‥
「棗、人が‥‥」
「大丈夫?!蜜柑ちゃん!!」
僕の言葉と被って勢いよく入ってきたのは鳴海先生と岬先生。それに気付いた棗の力が緩んだすきにツインテールの子はダッシュで鳴海先生に飛びついた。
「じゃあな、“水玉パンツ”」
僕達も隙を見て流架が蹴破った窓から逃げようとする。去り際に棗の片手には水玉模様の女の子のパンツ‥‥
パンツ‥‥。
「どうする?このまま初等部戻る?」
「おう。」
「凪は?」
「僕、父様に呼ばれてるから‥‥」
行平さんのことをそう呼ぶようになったのはつい最近。戸籍の移動手続きやらなんやらが終わり、僕は正式に彼の息子になった。最初の頃はそう呼ぶ事に恥じらっていたけど、誰かを父と呼ぶことに対する憧れの方が勝ってしまった。
高等部校長室
「よく来てくれたね、凪」
フカフカする王様が使いそうな大きな椅子に座った父様が出迎えてくれた。
「今日は君に渡したいものがあってね」
「僕に?」
「そうだよ。手を出してごらん」
大きなデスクを挟んで対面。両方の掌を父様に差し出す。
「トリプル昇格おめでとう」
差し出した掌の中には星のバッチが1つ。
「前回の試験では1位だったらしいね。」
「うん‥‥勉強、楽しいから」
褒められ慣れてなくて、なんだか少しむず痒い。
「それは良かった。これは私からのお祝いだよ。後ろの机のお菓子を好きなだけ食べるといい。」
振り向けば僕の大好きな和菓子がたくさんあった。ぜんざい、いちご大福、よもぎ団子‥‥棗と流架の分も持って帰れるかな‥‥。
「頬張り過ぎだよ。口元に粉がついてるよ」と父様に口元を拭われながら考えていた。
(凪ならまだしもお前相手に下心もくそもわくかよ)
(凪って誰やねんっ!)
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