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(棗side)









「凪っ‥‥」



校長とペルソナが部屋を去った。


去り際に俺に罰則面を付けて出ていくことを忘れずに。もちろん凪にはいつも通りの口面に制御ピアス。そして新しく、校長の手によって追加され舌についた制御ピアス。


校長にボロボロにされたあいつの元に急いで駆け寄る。



こいつは、いつもこんな罰則を受けていたのか?
あんな非人道的な扱いをこの学園で受けてきたのか?



精神的にくる否定なんかじゃなく、体に直接教え込む。生きてることを否定されているのにも関わらず、自ら生かす。死よりも苦しい状況じゃないか。





「あ、つめ‥‥?」




冷たい床に横たわる凪を呆然と見ていた俺。新しく開いた舌のピアスのせいで上手く回っていない呂律で俺の名前を呼んだ。



「あいしょ、ふ?」





大丈夫?


そんなの、お前に比べたら全然大したことない。俺の身体の傷なんてただのか擦り傷程度だ。

視界がどんどん歪んでくる。



あの時のことを思い出す。
北の森の湖で傷だらけだったはずの身体が綺麗に治っている俺と、血塗れのお前。



「あか、あいれ‥‥」

「‥‥ぁ」




“なか、ないで”





泣いてる?


俺が?




「‥‥ッ凪」








俺が、もっと強かったら

大人だったら。


流架や、葵を守れるくらい力があったら




学園に来て、そう何度も願っていた。





でももうわかった気がする。



俺はこいつの事も、守らなきゃいけない。



理由なんてよく分からない。
北の森の一件以降特に何かあった訳ではない。


教室で一生懸命に黒板の字をノートに写すところ。
晩メシで洋食が出てなれない手つきでフォークとスプーンを使うところ。
任務で無表情な顔をしたまま敵を食いちぎり、終われば泣きそうな顔をするところ。


全部、いつのまにか目で追ってしまっていた。




分かりにくい表情の中で、時たま見せる小さく笑うその姿に


俺はまだ、光を見失わなくて済んだのかもしれない。



けど、こいつはずっと1人だ。
このままほっておけば、ボロボロと崩れていっていなくなってしまいそうな気がした。







「‥‥凪」




血塗れの凪担ぎ、部屋を後にした。








(神なんて、いない)


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