※10話の閑話
※上鳴視点で短短短文



「何で俺、お前と飯なん?」



隣りで端末機を操作し、手ごろな店を検索している切島には失礼極まりない言葉を平気で口にしてしまうほど、俺の落ち込みようは最低値だった。
そのことを短期間の付き合いだというのに、切島はいい奴だった。



「別にいいじゃねえか。俺はお前と飯でも楽しいぜ」



こいついい奴だわ。ほろり、と目尻から涙が出そうだった。
だがしかし!麗日を誘ったが緑谷に意識を向けられてしまったことは否めない!しかも気がついたら邪神居なかったし……。俺の薔薇色の学生生活とは一体……。
落ち込む肩をトントン叩きながら切島が店までのルートを案内してくれた、矢先だった。俺の視界に飛び込んできた光景は、今の俺には止めを刺すには十分だった。



「なぁっ!……あ、あれは……!」
「今度はどうした? ってあれ?轟と邪神じゃん!おーい!」
「馬鹿ッ!!声をかけてどうするんですか、このお人よし男くんが!」



切島の口元を覆いふたりして建物の隙間に身を隠した。切島の声は大きいため、轟も邪神も声のする方へ一斉に振り返る。あの二人はホンマに核が違う。才能マン共め……。
周囲を見渡し轟が邪神に話かけて、二三会話したあと二人は再び歩き出した。
口元から手を離し、夢中で彼らの背中を追う視線。



「何だよ。声かければ一緒に飯食えるだろうが」
「あれを見て何にも思わないのか!お前の目は節穴かッ!!」



腕を大きく振りながら解説を始めた。今日の俺のことは先生と呼べ!



「いいか、よく見てみろ。轟と邪神の間を」
「間って……見える訳ねえだろ。動いてんだから」
「だったら俺らも動けばいいだろうが!」
「はあ、え? 後つけるってこと?」



着いて行けていない切島の腕を掴み、俺達は轟と邪神を尾行した。
壁の隙間から覗くと切島にもようやく奴ら間が見えたらしい。



「あれって……邪神大丈夫なのか?凍らせられてんじゃねえか」
「女の子にあの扱いはどうかと思うぞ俺も……って違う!確かにそこも目の付け所で俺もいいとは思うが、まるで違う!!いいか、あの轟様が、あの天然でイケメン振りかざしているのに俺は恋愛には興味がありませんとかクールぶってるモテる男である、轟が!邪神の腕を掴んで歩いている点に着目して欲しいんよ、俺は」
「お、おぅ…なるほど、な」



熱意ある俺の弁に、切島が両手を挙げて堂々と落ち着かせてくる。確かに声が大きかった所為で周囲からの注目の視線が痛い。軽く咳こみながら、再び二人の様子を観察した。



「上鳴の推測で行くと、無理矢理ってことか?」
「だと思うが……邪神が嫌がってないんだよね……うへ」



ガクリと肩を落とす。やっぱり世の女の子は皆イケメンが好きですか。そうですか、そうですか。男は顔の次が性格ってやつですもんね。ええ、ええ、存じておりますとも。上鳴電気、15歳。既に中学の頃に経験しております!
過去に打ちのめされていると、切島に「おい」と声をかけられて「んだよ」と傷心したまま顔を上げれば、視線の先の轟が邪神の掴んだ手首を持ち上げて凍りを溶かしていた。その仕草はまるで、エスコートする御伽噺の世界の王子様のようだった。



「クソ、イケメン滅びろ」
「爆豪みたいになってんぞ」
「俺をこの阿呆面と一緒にすんな」



俺と切島の頭上から聞き覚えのある声が聞こえ、ふたりで顔を上げるとそこには爆豪が心底呆れた表情で俺達を見下ろしていた。



「何だ爆豪寄り道でもしてたんかよ」
「別に関係ねえだろ」
「緑谷との一戦が尾を引いて傷心してるんだから、あんま絡むのはよしてやろうぜ切島」



何故か気を遣ったのに俺が頭部を殴られた。解せぬ……。
しかめっ面の爆豪だが、どこかすっきりとしていたその横顔に、まあいい方向かと納得した。



「コンビニに用があんのか。なら付き合ってやるよ、なあ上鳴」
「はあ?俺らは今大事な任務の最中だろうが!放り出す気かよ」
「違うって、ほれ。あっこ」



切島が指をさす。その先はコンビニだ。だからなんだよって言いそうになるが、ガラス越しに映った轟と邪神の姿に言葉は喉に流し込まれた。



「行くぞ切島!」
「ほれ爆豪も行くぞ」
「んで俺までッ!?」



半ば強制的に爆豪まで巻き込み、俺達は轟と邪神の入ったコンビニへと突入した。
店内は至って普通の内装だ。置いてある商品は微妙に差異はあるが、それでも大型店舗だけに、品揃えは充実していた。
スイーツコーナーの一角に邪神が唸りながら小首を傾げて陳列棚を見つめている。あーこれが女の子だよな、かわええわ。意外な邪神の一面に俺の背後に花が舞い散っていた。
それを蹴散らすように切島と爆豪が掌を左右に振りながら雲散させていた。



「気色悪ぃな」
「それは言いっこなしにしようぜ。俺ら三人とも共犯だから」
「爆豪は気になんねえの?」
「何がだよ」
「邪神のこと」
「……はあ?んで」
「だってお前、邪神のこと気になってるだろ」



指摘した訳じゃないが、思ったことを口にしただけだというのに爆豪は足元から一気に熱が上昇していき、頭の天辺まで真っ赤になった途端。ボフっと爆発した。まあ、あまり大きな音でもなかったので店内は普段どおりだった。



「何だよ。図星すぎて言葉もでねえの?案外純情少年なんだな爆豪君よ」
「…っ……ちげって!俺は別にあの女と重ねてなんかっ!」
「初恋の女と似てるとかそっち系なの?ますます純情じゃん!やべ親近感湧いてきた」
「上鳴。そこらへんにしとけよ」



切島が間に入りこの話はここで終わってしまう。別にこれくらいいいだろうに。折角あのクソを下水で煮込んだ性格の爆豪が人間らしい純真な部分を魅せてくれたってのに。
まあ、半分からかえて面白かったけどな。
そんな事をしている間に、轟が邪神と合流し楽しそうに談笑を始めていた。



「うわ……轟のあのとろける顔なんなの?死ぬの?俺死ぬの?」
「上鳴、落ち着け!死なないから!なあ!」
「距離ちけぇ……」
「爆豪も伝染すんなって!上鳴、帯電やめろ。俺まで沸騰しそうだわ」
「俺の所為にすんなよ!俺のがよっぽど哀しみの鎮魂だわ!」
「泣くな、鬱陶しい!」
「爆豪だって泣いてんじゃん!」
「これはちげえ!」
「涙の痕だけ強くなれるんだよ!!」
「そりゃアスファルトに咲く花だけだ!クソが!!」



ぎゃあぎゃあ喚きあいながら途中、切島が「君のために、ってか」と俺らの訳のわからない発言に対してまともに参加していたが、そんな阿呆な事をしている間に轟と邪神は既にコンビニから出て、互いに別れた後だった。



「逃しちゃったじゃん!」
「俺の所為にすんな、帯電野郎!」
「何か仲睦ましそうだったな。あれをお似合いって言うんだろうな」

「「 しみじみ言ってんじゃねえぞ、硬化!! 」」

「キレ方似てきたな」



両手を挙げて切島に指摘されると更に爆豪と俺はデットヒートした。
結局轟と邪神は何故二人でコンビニへやってきたのか解らずじまい。俺はこっそりと邪神が買った甘味を購入した。



「間接的にでも繋がれるならいいかと」
「さすが放電だな」
「けっ、負け犬の遠吠えってんだよクソ帯電」



爆豪の破棄捨てたような言葉にカチンと来たが、俺は今回怒鳴るのを辞めた。
何故なら俺はさっき爆豪が俺と同じ行為をしていたのを目撃したからだ。
お前の気持ちがわかる同士であるからな、俺。てか、もう、お前に絡んで怒鳴るの疲れた。
結局のところ、俺って邪神のこと大概好きかもしれないってことが爆豪を通じてわかってしまった。
いやー理解したくないような。したいような。
そんな複雑な気持ちのまま、夜空となって月が浮かぶ群青の空を見上げた。



「飯食い行こうぜ!」
「俺は帰る」
「まあまあ、そう言わずに行こうぜ」



その日は三人でジャンクフードを食べて帰宅した。




To be continued..........


上鳴くん、やっぱ好きだ。君がいないと生き抜きが出来ない。
轟パイセンを如何にクールビューティーに魅せるかに必死すぎてアカンことになってます。


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