1.独白


新設校で、中学の時のバスケ部の知り合いは誰もいねぇだろうって考えで誠凛高校って所を受験した。
勉強は嫌いだし、自分が相当馬鹿なのも自覚してたから、中学に続けてた部活を引退すれば勉強尽くし。
まぁそん時担任だったやつによればギリギリ合格点は行けるだろうという判断をもらっていたし、まぁ受かった。
双子の妹は秋田の…陽泉?って所に行くって聞いた。寮暮らしするんだ、と聞けばそうだよ〜といつもののんびりした口調で返ってきた。別にまぁ妹の好きにすればいいし、アタシもアタシで誠凛に進学は決まったんだから、とっとと高校の準備をするべきだと思う。未だに新しく買った制服には袖を通してないし、入学案内みたいなパンフレットは全く見た記憶がない。正直そんなもんいい事しか書いてねぇだろ。別に誠凛を悪い所と言ってるわけじゃない。

中学を卒業すればみんな春休み、普通は友達とかとどっかに行くんだろうが、友達なんて全くいない自分は家でダラダラ過ごすしかない。外に出てゲーセンにでも行こうと思ったが、金がない。…バイトすっかな高校入ったら…。
何もしない時間は、好きじゃない。余計な事を考えるから。殴られて、拒絶された時の事を思い出してしまうから。
アイツは、ショーゴは静岡の高校だっけ?ショーゴの周りにいる女がなんか言ってただけだから本当かどうかはわからないけど。


結局自分自身が未練引きずりすぎて笑いさえ出てこない。今他人にショーゴの事が好きかと聞かれれば、口では否定するが、内心ではすぐに頷く。
幼馴染みだから、拒絶される事なんてないって安心しきってた所はある。アイツに遊ばれてた女と一緒で、優越感でも感じてたのかもしれない。
ショーゴにとってはアタシだって、他の女と何も変わらなかったのに。

「…ばっかみてぇ。」

こんな事考えるから何もしてない時は嫌いだ。楽しくなかったけどクソ忙しかったバスケ部のマネージャーやってた方がよっぽどマシだ。
とりあえず高校入ったら意地でもバイトか部活をしよう。バスケ部のマネージャーなら中学でもやってたし、経験者だ。別にさつきちゃんみてぇな情報とかそんなもん持ってねぇけど。
新設校だし例えバスケ部入ったってアイツらとぶち当たる事もねぇだろ、強さは知らねぇけど。

「敦葉お風呂入りなさーい?」
「あー、うん」

扉越しに聞こえてきた母さんの声で、もうそんな時間かとベッドから起き上がる。
切ったばかりの髪の毛は軽く、特に寝癖とかもついてないみたいで、少し乱れた髪を手ぐしで直しながら部屋から出た。






来たばかりの静岡は、オレの顔を知ってるやつなんか1人もいなかった。帝光出身だって知ってる奴も。
まだ部活、それ以前に高校に入学してなきゃそりゃあそうだろう。
高校を選んだ基準なんざ特にねぇが、県外で寮暮らしってのは中学の時より楽でいいかもしれねぇ。
うるせぇババアもうるせぇクソ兄貴もいねぇし、強いて言うなら、学校から決められてる門限みたいなモンがめんどくせぇだけだろ。そんなモン教師とかにバレなきゃいい話だ、バレなきゃ女も連れ込めるしな。

寮への手続きは既に済ませてあるってババアに聞いたし、引越しのあれこれで県外の生徒は式より早めに来てもいいと聞いた。
今は自分の荷物もまとめずに適当に携帯をいじっているが、連絡先の一点に目が行き、指先が止まる。

「…アツハ、ねぇ」

未だに連絡先を消さずにいる自分に反吐が出る。自分で殴っといて、突き放しといてこれだ。
あのバカがあのままオレと一緒に退部してりゃ、またオレの方に引っ付いてくるだけだろ、めんどくせぇ。
オレと離れりゃ、アツハだって楽だろ。

…なんて、アイツ自身の気持ちに昔から気づいときながら、自分勝手な言い訳をしてるに過ぎねぇ。

そもそもアイツはただの幼馴染みだ。オレにとってはそれだけに過ぎねぇし、アイツよりいい女なんて山ほどいる。

「…めんどくせぇ」


家が隣なだけの幼馴染みなんか、片方から突き放せばただの他人だろ。あんなめんどくせぇ女、オレが覚えてる必要もねぇ。
アイツがただオレに金魚の糞みてぇに引っ付いてきただけで、オレ自身はなんとも思ってねぇ。
だから、どうでもいい。

今日は外出たらいい女にでもナンパすっか、と一瞬で頭の中を支配していたアイツの事を忘れ、なんの片付けもせずに寮を出た。

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