2.部活勧誘
桜なんて腐るほど見た。
いや腐るほどは見てない、毎年入学式と卒業式の恒例だろう。自分にとっては別に珍しい物でもなんでもないが、周囲の同級生は楽しげに桜の前で写真を撮っている。見事に初日から友達作りとやらに失敗したアタシは、特に撮る相手もいない。虚しいな。
そもそも話しかけようと努力はしたが怖がられる…いや嘘努力はしてねぇ、前にいた女子がプリント落としたから拾って呼びかけたら、凄い敬語使われたからこれはもうダメだなと察した。
ピアス取ればいいのかと思ったけどこれは外したくない、これも未練だけど、それは今はいい。
金髪は地毛だし、どうしようもない気がする。いっそそんなめんどくせぇ努力せずに3年間これでもいいか…中学の時もそんなもんだったし…。
「つーかこれどうなってんだよ…」
部活勧誘の山、山っつーかこれは嵐だろ最早。さっきまで桜の前で写真撮ってる奴等をのんびり見てたのに、いつの間にか部活勧誘の嵐に巻き込まれてた。
正直部活かバイトかで迷ってるところはあったけど、これ見たら一気に部活やる気なくなった…どんだけ必死なんだよ1年入れんのによ…。
「君運動得意そうだね!テニス部どう?」
「いいっす」
「あ!君元気そうだねー!マネージャーとかどう?サッカー部の!」
「マジでいいっす」
なんだこれこんな事延々と言われんのか、もう家帰りたい。そもそも元気そうだからマネージャーってなんだよ、運動得意そうだから運動部勧誘する方が当たり前だろ、そんなマネージャーに飢えてんのかよ。
そんな事を考えてる間にも勧誘は続き、スルーしようと思ったが手に持つプリントは増えまくるだけだし段々不機嫌になるのは間違ってねぇだろ…。どうしよう、少しバスケ部見ようと思ったけどバスケ部のブースが全くわからねぇ。つーかそもそもどこだここ。
「ねぇ君!」
「あーもう!!アンタさ!」
「!?」
丁度よかったのかもしれない、偶然話しかけてきた先輩らしき人の声に振り向いて近づく。猫みたいな口と目をした先輩は驚いたのか後ずさってたが、そんな事はどうでもいい。
「バスケ部のブース、どこすか」
「……え?」
きょとん、ていう表現が一番似合うような顔をしばらくしていたが、あぁバスケ部!バスケ部ね!こっち!!とすぐに顔を明るくして誘導してくれた。やけに嬉しそうだけどバスケ部関係者、つーか部員だったのか?それならそれで別にいいんだけど、これから入るかもしれない部活の先輩に最初っから酷い態度取ったかもしれない。一応気にする。
「ここ!あっ、そうだ女の子って事はマネージャー希望?中学でもやってたとか?」
「はぁまぁそんなもんです」
「そうなんだ!女の子が増えるのはいい事だよね!」
「そうっすね」
あまり得意じゃない会話をなんとなく返していれば、男子バスケットボール部と張り紙がしてあるところに辿り着いた。
「あれ?カントクいないな?どこ行ったんだろ」
「カントクなら今ちょっと出てるぞ」
「あれそーなの?マネージャー希望の子来たんだけどなぁ…」
「マネージャー?…あぁそいつか」
眼鏡の人に見られたので、一応会釈をした。監督がどうやらいないらしい、つーか部活勧誘なんか監督いなくても主将がやればいい話じゃねぇのか。まぁ何だっていいけどさ、別にバスケ部入るの決めたわけじゃねぇし、監督がいなくて手続きとか出来ないなら帰るだけだし。
「そこのお前、今カントクいねぇからとりあえず入部届だけ書いて出してくれりゃいいよ」
「あぁ、はい」
いなくても別にいいのかよ、なんて思いつつとりあえず座って紙に記入する。
名前学籍番号出身中学志望動機…なんてありふれた普通の紙だ。志望動機は別に中学からやってたからでいいか…。
「終わりました」
「あぁサンキュ。まぁ知らない先輩に囲まれてても暇だろうし、居心地悪いだろうからまた部活の時にな、えーっと……九条」
「…どうも」
バスケ部入るのは確定ではないけど、一応仮入部期間で色々考えればそれでいいのかもしれない。暇つぶし、ではないけど少しでも色々考える時間が消えればそれでいい、なんて言ったら普通に入部却下されそう。とりあえず今はこれでいいんだろう、部活が始まる時は担任からでもなんでも連絡は来るんだろうし、今はこれでいいか。
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