13.少しずつ


「ひとめぼれ」

まるで初めてその言葉を聞いて繰り返す子供のように、牛島先輩は私が言った言葉を唱えた。いつも通りの表情も相まって、なんだか似合わなくて笑ってしまいそうになる。
それでもこっちは好きな人を目の前に好きになった理由を伝えるということをしているので、すぐに恥ずかしいという感情に支配されてしまう。

「…中学の頃、私帰り道でボールに当たりそうになったんです。」
「それで?」
「その時、助けてくれたのが牛島先輩でした。」
「……?」

やっぱり覚えてないか、ちょっとわかってたけど。私の顔は覚えてなくても少しでも助けたって行為自体を覚えててくれればなぁ、なんて高望みだったのかもしれない。
でもそれでも、私はそれが理由で白鳥沢まで来たから。

「それで俺を好きになったのか?…俺は覚えていないが。」
「えへへ、そうですよね。」

わかってました、なんて続けて笑った。

「なぜ笑う?」
「え、」
「好きになった理由を好きになった相手が覚えていないというのは、嫌ではないのか。」

そんな風に返されて、私は思わず瞬きを繰り返してしまう。
それと同時に、牛島先輩が凄く真っ直ぐで本当に直球な人なんだなとまた知ることが出来た。
嫌とか、そういうんじゃない。もし牛島先輩に告白する前の私だったら、牛島先輩に覚えていないと直接言われてたらきっと落ち込んでた。
でも今はね、違うんですよ。

「嫌じゃないですよ。だって、」
「だって?」

「今はちゃんと、牛島先輩に覚えてもらってるから。」

だから嫌な気持ちなんか吹き飛んじゃいます、そう続ければしばらく間が開きつつも、牛島先輩はそうか、なんて続けて何やら考え込み出していた。
そもそも勝手に一目惚れして勝手に好きになって勝手に追いかけてきたのは私なんだ、相手に覚えてもらえてなくて落ち込むのはお門違いだと思う。

「……やはり逢坂は、」
「はい?」
「変な後輩だ。」

考え込んでいたと思ったら間髪入れずにそんな言葉が飛んできた。な、なんだろう今のは褒められたのか…な…?意味をどう捉えていいのかわからないぞ牛島先輩…。

「あ…りがとうございます?」

取り敢えずその場に適した言葉かはわかんないけどお礼を言った。なんだろう、この光景見たら天童先輩あたりが床に転げ回りながら大爆笑してそう。
そんな私にとって変な時間は終わり、その後は牛島先輩の自主練に付き合っていた。
本当、なんでいきなり聞いたんだろう、牛島先輩。






「それでそれで若利君!聞けたの弥子ちゃんに!好きになられた理由!」
「そんな事聞いたのかよ!?」


教室に行けば、何故かクラスの違う天童と瀬見が俺の席の周辺に居た。恐らく天童が連れてきたのではないかと思う。

「ああ、聞いた。」
「そしてお前はちゃんと聞いたのかよ!!」
「朝から声が大きく出るな瀬見。」
「別にそこ突っ込んで欲しいわけじゃあねぇんだよなぁ今!!」

何やら瀬見を疲れさせてしまったらしいが、そんなことよりと天童が嬉々とした目でこちらを見る。聞いた結果を言えという意味だろう。

「一目惚れらしい。」
「わぁ〜弥子ちゃんらしい理由〜!」

弥子ちゃんって本当にド直球で真っ直ぐなの若利君になんか似てるよネ〜!と、天童が続けた。
そうなのだろうか、確かに逢坂は嘘などが苦手そうだとは思うが…俺に似ているというのはわからない、そもそも逢坂は表情がころころ変わるので俺とは大違いだろう。
…ああ、そうだ。

「逢坂が俺に告白をしてくる時の真っ直ぐとした目は、よくわからないが気になるな。」
「え、」

そう俺が思ったことを言えば、何故か天童と瀬見が固まった。何かおかしい事を言っただろうか。
一応問いかけてみようと口を開こうとしたら、れおーーーん!!!!っと天童が慌てて教室を出て行く。大平に用があったことでも思い出したのか?

「天童も慌ただしい奴だな。」
「いや今のはお前の爆弾発言のせいだぞ若利…。」
「?俺が何か言ったか?」
「…いや、いい。」

お前はずっとそのままでいろよ…などと何故か諦めたような瀬見の言葉に、俺は首を傾げた。
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